猫を飼うつもりが
さびねこ
第一話 恵の雨
1
バタバタと人が行き交うオフィス。コピー機は頻繁に悲鳴を上げ、一つ雑用を終える毎に誰かかしらが声をかけてくる。
「すみません、これもコピーおねがします。30ページ、各25ずつで!」
「恵さん、それ終わったらこの資料を田中さんに渡しといてくれる?俺、これから打ち合わせでもう出るんだ。頼んだよ。」
「雨宮さん〜‼︎大至急、加藤呉服店さんとグランドハイツさんの契約情報出してください〜〜‼︎ちょっとトラブっちゃって・・・!」
次から次へと息継ぎする間もなく湧く無限タスクにめまいを覚えつつ、優先順位を考えながら次々にこなしていく。自分の業務も別にあるのがだ、断る隙もなくどんどん頼まれる為やらざるを得ない。
目まぐるしく回ってくる雑務に嫌気をさしてはいるものの、私は仕事が好きだった。
誰かに頼られることも、忙しいとは言いつつもタスクをこなしてくゲームのような感覚も、楽しみの一つだった。
忙しければ忙しいほど時間が過ぎるのは早いもので、気がつけが時計の針は20時を超えていた。与えられたタスクはすべて遂行し、自分の業務も一段落ついた。
さて、今日はそろそろ帰るか・・・。
パソコンの電源を落とし、書類と付箋で散らかったデスクを片付ける。
数人残ったオフィスに向かって「お先に失礼しま〜す。」と声をかけようと思ったその時、手にかけたドアノブが勢いよく下がりそのまま強引に引かれる。
「先輩〜〜〜〜〜!!!」
その声に私は顔が引き攣った。
—————後輩の話を聞くと、午前にトラブルを起こしていた顧客の問題がまだ解決していなかったようで、なんとか一人で頑張ったものの余計に拗れてしまったらしい。
後輩は私に助けを求めるときには決まって「先輩」と呼ぶのだ。扉が開いて声を聞いた時から色々察するものがあった。しかしこんな状態の後輩を置いて帰るわけにもいかないので、仕方なく落としたパソコンを再度つけ再びデスクに向かう。
「・・・よし、これでなんとかなりそうだね。上野さんには明日自分で報告するんだよ。それくらい出来るでしょ?」
「雨宮先輩〜〜〜ありがとうございますぅ!明日お礼にスイーツ持ってきますね♡」
まったくもう…なんて思うものの、分かりやすい反応についつい笑みがこぼれてしまう。
顧客や上司の愚痴を聞きながら最寄りの駅まで一緒に向かい、大きく手を振る後輩を後に電車に乗った。
ここから家に着くまで45分…今日も自炊ができなかった。そろそろ小松菜の寿命が尽きるな…いや、寿命どころかゾンビのようになっているのでは無いか!?などと冷蔵庫内の心配をしていたら、気づけば電車は目的の駅に到着していた。
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