放課後デート

 放課後になり、俺はすぐに学校を飛び出した。

 恥ずかしい話だが、それだけ今すぐにでも亞里亞さんに会いたかったというのがある。

 莉愛さんはそんな俺に苦笑するも送り出してくれた。


『今日はお友達と過ごすことになっていますので、もしも街中で出会えたらよろしくお願いしますね』


 そう言われると出会うとどんなことを言われるのか分からないのもあるけど、そもそもそこで祖母ですなんて言われたら……どうなるんだ?

 まあその場合はこんな綺麗な祖母が居てたまるかって笑い話になるか、或いは信じられて俺が変な目で見られたり?


「……特に困りはしないな」


 相手が亞里亞さんだから何を思われたところで別にって感じだ。

 俺にとって亞里亞さんは恋人とか奥さんとか、まだまだそういう感覚にはなっていない……でも亞里亞さんのことがたまらなく大好きであることは自信を持って言える。


「だから早く会いたいんだ!!」


 汗を掻くのさえ構わない、とにかく早く会いたい。

 そんな気持ちだけで家まで走り続けると、西園寺家の前に亞里亞さんがすでに立っていた。


「亞里亞さん!」

「刀祢!」


 名前を呼べばすぐに反応してくれるだけでなく、大きく腕を広げた。

 その豊満な胸元……昨晩にたっぷり触ったり吸ったりしたそこへ飛び込もうとしたところで、俺は自分が汗を掻いていることを思い出す。

 足で急ブレーキを掛けるように立ち止まり、ちょっと待ってくださいと体の向きを家へと向ける。


「荷物を置いてくるの?」

「それもあるんですけど、ごめんなさい亞里亞さん。ちょっと汗を流させてもらえると……」

「汗?」

「走ってきてそのままなので」


 それだけ言って玄関に向かい、鞄を置いたところだった。

 背後から腕が伸びたかと思えば、背中に押し付けられる弾力を感じて俺は即座に亞里亞さんに抱きしめられたのだと理解した。


「あ、亞里亞さん?」

「魔法があるでしょう? せっかくこうして早く帰ってきてこれからデートなのだし、魔法で体を綺麗にしてしまいましょう」

「……そういえば」


 そういやそういう魔法があるんだったか。


「ならそれを――」

「ぺろっ」

「っ!?」

「ぅん……あなたの汗……凄く美味しいわ」

「亞里亞さん!?」


 首元に顔を埋めたかと思えば、ペロペロと亞里亞さんが舐めてくる。

 くすぐったさと恥ずかしさに身悶えするも、女性とは思えないほどの力で抱きしめられているので当然抜け出せない。

 止めなければ全身を舐め回す勢いで首筋、頬……手の甲なんかも余すことなく舐め尽くす。


「ふぅ、満足したわ」

「っ……いきなりすぎでしょ亞里亞さん!」

「あら、かつてのあなたも同じだったのに」

「へっ?」

「一時間くらい私のおっぱいに似たようなことをする日もあったんだからお相子よ」

「それは前世の俺ですよねぇ!?」


 というかマジで俺は何をやってんだ!?

 一時間だと……!? この胸に一時間悪戯を……そりゃ今の俺でも全く飽きが来なくて出来るとは思うけど、だからってそういうのを赤裸々に告白してくるんじゃないよ!!


「はい、洗浄」

「おうふっ!?」


 スッと体に涼しい風が吹き込んだかと思えば、体のあったべた付きが綺麗に取り除かれていく。

 なるほどこれが体を綺麗にする魔法……そういえば昨晩は行為の後に風呂に入らなかったけど、起きた時に体が綺麗だったのは魔法を使ってくれたからなのかな。


「それじゃあ刀祢、行きましょうか」

「うっす!」


 こうして、俺たちは放課後デートにしゃれ込んだ。

 まあ俺は学生だけど亞里亞さんは学生ではないので、放課後デートと言う言葉が合っているかは分からないが……なんて言うと亞里亞さんは分かりやすく頬を膨らませた。


「私が年寄りって言いたいの?」

「そういうわけじゃないです!」


 ……亞里亞さんって凄く可愛いんだけど、ちょっと年齢に関してはめんどくさいかもしれない。

 以前はおばさんだから良いのとか聞いていたのに、昨晩のやり取りを経てやっぱり若さが大事だと再認識したのか……それとも俺が学生だからそこに戻れないことを悲しんでいるのかは分からないが。


「そういえば亞里亞さん……凄く良いですね」

「ふふっ、ありがとう♪」


 今日のファッションめっちゃエロい!

 温かくなった季節に合う半袖ニットだけど、やはりニットのシャツって体のライン……主に胸の膨らみが結構目立つので、亞里亞さんの形の良い丸い胸がこれでもかと視界に入り込むのだ。

 そして下はロングスカートで全くエロさは無いのだが……まあ何を着てもエロに直結させてしまうくらいに亞里亞さんはエロい人なんだ。


「こうして男性と外を歩くのは何年振りかしらね」

「そんなにですか?」

「当たり前じゃないの。あなたが居なくなってから異性と歩くことはなかったから」

「あ……そっか」


 亞里亞さんはとにかく俺から離れない。

 俺の右腕は完全に亞里亞さんの胸と同化してるんじゃないかってくらいに抱きしめられており、少々歩きづらさはあるが全然我慢出来る。


「見て、色んな人が私たちを見ているわ」

「……………」


 亞里亞さんが言ったように、色んな人が俺たちを見ている。

 俺に対しては分かりやすい嫉妬の視線……なんで俺みたいな奴がって視線や、亞里亞さんの隣に居られないことを単に嘆く視線だとか……何故か分からないがハッキリと分かってしまう。


「まあ、俺はガキで亞里亞さんはきっと大学生くらいの超絶美人に見えてるでしょうし……それならなんで俺みたいなのがってなるのも分からなくはないですね」

「あなた以外考えられないのにね――さあ刀祢、何をして過ごす?」

「う~ん……取り敢えずこのまま歩きましょ? のんびり歩きながら見せ付けてやりますか」

「あら、良いわね♪」


 見せ付けてやる……この人は俺だけの大事な人なんだって。

 そんな風に考えていた俺だけど、どうやら前世の俺もこう思って亞里亞さんの存在を見せ付けていたらしい。

 そのことに亞里亞さんは喜び、逆に彼女も俺だけのモノだと見せ付けていたのだとか。


「段々と昔に戻っているようで楽しいわ……あぁ♪ 今日は帰らずにラブホに行く? また昔のようにね♪」


 流石に学生なのでラブホは勘弁していただいて……!

 それから亞里亞さんとデートを楽しむ中、心配していた莉愛さんとの邂逅はなかった。

 でも……俺は自分の意思の弱さを思う存分痛感した。

 何故なら亞里亞さんが傍に居るだけでムラムラするし、とにかく触れたくて色々したい欲求に駆られて……本当に我慢するのが大変だったのだから。


「我慢しなくても良いのに」

「しますよ外だから!」

「前のあなたは私を公園のトイレで――」


 ……俺さ、タイムスリップでも出来るものならかつての俺に会いたい。

 お前はどんだけ亞里亞さんが好きで……それは良いけど、もう少ししっかりしろって怒りたいよ。

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