解決した夢と続く現実

 亞里亞さんとの朝は、そこまで長く続かない。

 というのも俺は学生という立場なので学校に行かなければならないからだ。ただ亞里亞さんが魔法を使うことで、俺があたかも学校に通ったように出来るとも言っていたけど、いくら彼女と一緒に居たいとはいえ学生としての役目を放棄するわけには行かない。


『学校、頑張ってね。あなたが帰るのを待っているから』


 そんな言葉を言われたらやる気も出てくる。

 しかも学校が終わったらデートの約束までしたので、今日の俺はいつも以上にテンションが高い。


「むぅ……おめでたいのにどうしてか複雑な気持ちですね」

「えっと……」


 俺の楽しそうな様子に、隣を歩く莉愛さんがそう言った。

 一応亞里亞さんとのことは世那さんと莉愛さんに説明しており、二人とも心から祝福してくれたのだが……世那さんに至っては時が来たと言わんばかりに舌なめずりしていたのが気になる。


「ですが……祖母があんなにも嬉しそうにしているのは嬉しかったです」

「……俺も、亞里亞さんが笑顔なのが凄く嬉しいよ」

「前のようには話さないんですか? 祖父さん?」

「しばらくはこのままかな……ってその呼び方止めてね?」

「ふふっ、は~い」


 前世を含めると間違ってはないんだけど、流石にこの歳で祖父と呼ばれるのは本当に嫌だぞ……?

 まあこんな美人な孫が居るってのは悪くないんだけど、それはもう少し歳を取った時に感じたいし。


「でもこれで安心したこともあります」

「安心?」

「だってこれで刀祢君はもう祖母から離れないでしょう? ということはずっと一緒に居るということですから」

「それはまあ……そうだね」

「ですから何も焦ることはありません。これからずっと、長い時間を掛けてじっくりと私の存在をあなたに刻み付けていきます」

「……お手柔らかにお願いします」

「どうですかね~♪」


 これは……想像以上に大変な日々が待っていそうだ。

 それから莉愛さんと共に学校に行き、最近は当たり前になってきた多くの視線を浴びる。

 そして、俺としては気になっていたことがある。

 それはもちろん翔の存在だ。


「うっす~」


 教室でしばらく待っていると、翔が教室に入ってきた。

 いつもと変わらない様子……目の下にあった隈はなくなり、それこそ彼が眠れないと言う前の明るい表情に戻っている。


「よっ、翔」

「お、おうおはよう……どうしたよそんな慌てて」

「馬鹿野郎、お前の調子が大丈夫か気になってんだろうが」


 そう言うと翔はポカンとした後、クスッと笑った。


「ありがとな……やっぱ心配させてたか」

「そりゃするに決まってる」

「……いや、マジで今日の目覚めは良かったんだ。微妙にまた悪夢を見たような気がするんだけど、その後が凄くてさ!」

「え?」


 ちょっと来い、翔にガッと肩を掴まれて顔を寄せた。

 翔は興奮した様子で言葉を続けた。


「いつもみたいに悪夢を見ていたと思ったんだわ。そしたら突然その女性が俺に謝ったんだよ!」

「……へぇ?」

「それで、その人が居なくなって……代わりに大量のエロい姉ちゃんたちが現れたんだ。エロいだけじゃなくものすっごい美人! 夢だってのにハッキリと時間の流れとか、触った感触とか全部分かるくらい……マジで現実に思えるくらいの夢を見たんだわ!」

「……そうなんだ」


 なんとなく分かってきたぞ。

 たぶんこれは亞里亞さんなりのアフターケアみたいなものかな? でも流石魔法だな……やっぱり翔みたいな男子にはそういう夢が高い薬よりも効果的なんだろう。


「とにかく大丈夫なら良かったわ」

「おう!」


 心なしか、前より元気になってない?

 翔の様子に安心し席に戻ると、察したように莉愛さんが口を開く。


「私が寝ている間に全て終わっていたのは仲間外れ感がありましたけど、お母さんたちから聞きました。きっとハーレムの夢を見せたのでしょう」

「それってどんななの?」

「その名の通りですよ。夢ではありますが、限りなく現実と同じような感じ方を体験出来ます。出てくる女性は全てその人の好みを全面的に押し出し、体格や声も全てが好みになりますね。かつて精神的な病気の治療としても使ったと聞いたことがあります」

「凄いな……」

「気になりますか?」

「……ちょっと」


 男として少しだけ気にはなる……けど俺にはもう亞里亞さんという女性が傍に居るし、どうなるか分からないが莉愛さんや世那さんも居てくれるんだからそういうのは必要ない。


「ふふっ、覚えておきますね――たとえ夢でなくても、刀祢君ならいつだってそれを体験出来ますから」

「……莉愛さん?」

「うふふ~♪」


 俺はこの発言の意味がその時には分からなかったが、夢について羨ましいと言ってしまった時点で察することが出来るはずだった……でも俺は翔が元気になったことが嬉しくてそれしか考えてなかったんだ。


 だから、想像なんて出来るわけもない。

 夢でも妄想でもなく、ましてやそういうお店で役割を与えられた女性に相手をしてもらうわけでもなく……あまりにも美しく、スタイルも良く、そしてエッチな女性たちが揃って奉仕してくるという瞬間を。

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