魔女の運命
放課後になり、翔を遊ぼうって誘おうとしたが止めた。
というのも更に目の隈が酷くなったような気がして、とてもじゃないが遊べるような雰囲気じゃなかった。
今のあいつにとって寝ると嫌な夢を見てしまうため、帰ってすぐ寝ろとも言えず……しっかり休めとは伝えたが。
「本当にどうしちまったんだろうな……」
今までこんなことはなかった……だからこそ気になって仕方ない。
彼が話してくれた夢のことなど早く亞里亞さんたちに相談したいところなんだが、帰ってくるのは深夜になると莉愛さんが言っていた。
「また、彼を見ていたんですか?」
「……うん」
翔の背が見えなくなったところで莉愛さんが声を掛けてきた。
昼休みに莉愛さんから衝撃なことを聞いたばかりなのもあるが、同時にその後のことを思い出す。
『刀祢君♡』
あの背中を這う彼女の手だったり、良い香りだったり……胸に押し付けられた柔らかな弾力だったりが全て瞬時に思い出される。
(俺……よく我慢したよな)
正直、あの時の俺はどうかしてた。
莉愛さんと亞里亞さんの姿が重なり、学校に居ることや時間のことも全て忘れて彼女を押し倒してしまえと……そう思いそうになったほど、あの時の俺はおかしかった。
「……ふぅ」
まあ結局、何もなかったわけだけど……それでもある意味で莉愛さんと濃厚すぎる時間を過ごしたことは確かなので、それを意識すると途端に体が熱くなる。
「どうしましたか?」
「……いや」
「お昼のこと、考えてましたか?」
ニヤリと、様になる笑みを携えて彼女は言った。
途端にドキッとして更に上がる体温はもちろんのこと、今日の俺はどうにも彼女のことばかり意識してしまう。
……取り敢えず、荷物を纏めてとっとと帰るか。
「もう帰りますか?」
「そうだね。用もないし……」
「では、私も一緒に帰って良いですか?」
「……おう」
ということで、朝同様に莉愛さんも一緒に帰ることに。
下駄箱へ向かうまでに一年の男子が莉愛さんに声を掛けようとしてきたが、莉愛さんは声を掛けられる前にごめんなさいと謝るため、向こうとしては出鼻を挫かれたようなものだがそれ以上声を掛けようという気にはならないらしい。
「転校してまだちょっとなのに、かなり人気者になったな莉愛さん」
「前の学校と似たような感じになりそうで嫌ですね。まあでも、こっちの学校の方が何倍もマシです」
「そうなの?」
「はい――刀祢君が傍に居ますから♪」
「……………」
今日の莉愛さんはグイグイだな……でもやっぱり、亞里亞さんと改めて話したことが関係しているのか?
まだその辺りの詳しいことは全然聞いてないものの、莉愛さんの中で何かしらの変化があったのは確かのようだ……これも今更だけど。
「ところで刀祢君」
「あい?」
「今日、お夕飯を一緒しませんか?」
「え?」
「うちに来てくださいよ」
っと、そんな提案をされてしまった。
どうしようか迷ったのはもちろんだが、莉愛さんがあまりにも断ったら悲しいみたいな表情をしてきたせいもあって、結局その提案に頷いた。
嬉しそうに笑う莉愛さんを見ているとこう……やっぱり自分よりも小さな子供が喜んでて微笑ましいような、そんな感覚を抱いてしまってつい何でも頷いてしまいそうになる。
(俺がずっと、前世の俺のままだったら孫だもんな……)
孫……同い年の女子が孫ってどういう世界線だよと苦笑しつつ、そのまま莉愛さんと共に魔女の家へと向かうのだった。
▼▽
魔女の家……読んで字の如く、立派な家だ。
だがその内装は過ごしやすそうな洋の作りで、こう言ってはあれだが少しだけ拍子抜けした。
「魔女が住む家ってことで、魔法陣くらいあると思ったんだけど」
「流石にそんな分かりやすいものはないですよ。時と場合によると言えばその通りですが、一昔前だと部屋のあちこちに呪文が彫られていたのも珍しくは無かったみたいです」
「へぇ」
まるで呪いの部屋だな……。
「夕飯まで時間は全然……というかまだ五時にもなってないですし、それまでのんびりしませんか?」
「あぁうん……そだね」
のんびりしようと言われたものの、何をすれば良いんだ?
「……………」
とはいえ、こうして初めて来た場所だと色々と視線を向けてしまう。
俺の家は両親との思い出が残る大切な場所だけど、この西園寺家のリビングには温かさを感じる。
越してきたばかりでも内装は魔法で以前の家からそのままらしく、それがこの温かさの理由なんじゃないだろうか。
「……莉愛さんだけじゃなくて、亞里亞さんや世那さんを感じられる家だなって思ったよ。温かい……優しい家族の家だ」
「ありがとうございます。母も祖母も、本当に私のことを大切にしてくれますから」
その後、俺は座るのが怖くなるほどの高級そうなソファに腰を下ろす。
隣に莉愛さんが居たので座れたけど……このソファ以外にも、飾られているアンティークとかめっちゃ高そうだ。
絶対に触って壊さないようにしないと……そう思っていると、もっと触れてはならない存在が向こうから触れてきた。
「刀祢君♪」
「っ!?」
俺の腕を胸に抱き、決して逃がさないと言わんばかりに莉愛さんは引っ付いてきた。
「今日の私は積極的でしたか?」
「え? あぁ……うん」
「それもそうですよね――お母さんたちが刀祢君と気持ちを通わせればするほど、私も同じようにそうなるんですから」
「それは……」
「そういうものなんですよ。魔女とはそういうもの……同じ血が流れている者は、同じ存在を好きになるということです」
それは……まるで運命を決定されているみたいに聞き取れる。
そう考えると莉愛さんに申し訳なさのようなものが溢れてくるが、どうもそれは杞憂らしい。
「私はずっと、大好きだった声の主に会いたいと思っていました。それがこうして実際に会って、気持ちを抑えるのも難しいくらいにあなたに焦がれています。これが魔女の定めとは言いますが、私にとって幸せな運命を導いてくれました」
莉愛さんは、ストレートにそう言い放って更に体を擦り付ける。
これからまだ夜も一緒に過ごさなければいけない運命の元……俺は色々と大丈夫だろうか……?
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