熱烈な告白
それは正に、時空を超えた旅行だった。
物理的に時間を超越するわけではなく、亞里亞さんの魔法によって意識のみを過去に飛ばすものだ。
「こんなことが……出来るのかよ」
「魔女だもの」
魔女だもの、もう何度言われたか分からないくらいだ。
俺は亞里亞さんに手を繋がれたまま、流れていく記憶を見ていく……その中にはやはり、彼女との出会いがあった。
『魔女……』
『怖いかしら? まあ、あなたのような凡人には理解が――』
『いや、怖くはないけどさ。つうか怖いよりエロって思った』
『な、なんでエロいって?』
『西園寺さんめっちゃスタイル良くて美人だろ? しかも今みたいに魔女が着るローブみたいな……腰のスリットとかエロすぎるだろ』
『そ、そっちなのね……』
一体何の話をしてるんだと叫びたかった。
というか思いっきり恥ずかしそうに叫んでいた……だがしかし、これもまた俺にとって懐かしいと思わせる記憶だった。
エロいと言われた学生時代の亞里亞さんは、嫌がるというよりドン引きしているのは少し心に刺さる痛みがあるが、隣に居る大人の亞里亞さんは嬉しそうに微笑んでいる。
「この時は驚いたわ。さっきも言ったけど、魔女に限らず人は未知のモノに恐れるものよ。好奇心に突き動かされて興味を持つ者も居るけれど、実際に目にしたら恐怖が勝る……でもあなたはこうだった。いきなりエロいって言われて私を掻き乱したのよ」
「……これはどう考えても黒歴史では」
「黒歴史なんかじゃないわ。これがなければあなたに私は興味を持たなかったんだから」
それは……前世の俺グッジョブなのか?
けど俺としても魔女って存在を前にして恐れたりは……何となくだけどしない気がする。
だってその証拠に、今もそんなことは決してないし……今見ている光景の俺みたいに、亞里亞さんのことを心底エロいって思っちゃってるし。
そうこうしていると更に映像は進み……これは?
『その……流石に爛れすぎてないか?』
『あら、嫌なの?』
流れてきた光景は、正しく情事のものだ。
あまりにも生々しい映像に俺はサッと視線を逸らしたが、その先に見える亞里亞さんは蕩けるような表情でナニを見ている。
「本当に……素敵だったわ。元々魔女は、普通の人よりも性欲が強いけれどそれを気にせずこうして付き合ってくれた……ふふっ、もちろんそれ以外でも刀祢は素敵だったのよ」
「……………」
一言よろしいか?
俺は一体どういう反応をすれば良いんだ……?
「……?」
だが、次に流れた光景はシリアスなものだった。
『本当に居るとはな、魔女め』
『彼女に何をする気だ? 彼女は俺の奥さんだ』
『正気か? 魔女と共に住むなど狂っている』
『な~にが狂ってるだ。悪いことをしたわけでもないし、誰かに迷惑を掛けているわけでもない……まあ、仮にそうしていたとしても俺は彼女を守る――俺は彼女のことを愛しているから』
『……刀祢』
やはり魔女絡みの騒ぎはあったようで……魔女狩りか?
とにもかくにも前世の俺は体を張るように亞里亞さんを守っており、その姿は俺が言うのも何だがかっこよかった。
「魔女狩り……もう居ないけれど、この時は必死にあなたが守ってくれたのよ。私が対処出来るとは言ったのに、それでも刀祢は体を張るくらいは出来ると言って退かなかった……あなたは本当に私をずっと愛して、そして守ってくれた」
「……こんな美人な奥さんが居たら必死に守りたくもなりますよ」
「嬉しいわ!」
ギュッと亞里亞さんが抱き着き、俺の顔面は双丘に埋もれる。
「ふふっ、あなたが刀祢だと分かっても……そうねぇ。今の貴女を見ていると息子ってこんな感じなのかしらって思うわ。でもあなたが夫だという私の考えは変わらない……前のあなたはしてくれなかったけれど、今のあなたなら赤ちゃんプレイとかしてくれる?」
「な、何を言って!?」
赤ちゃんプレイって何をするの!? めっちゃ気になるけど!?
というかさっきから亞里亞さんが甘いというか……何を言っても、何をしてきても甘々すぎて俺の情緒がおかしくなりそう。
それからもしばらく過去の映像を眺め続け……俺が死ぬ間際に関してのみ、亞里亞さんが二度と見たくないからと言って終わりを告げた。
「……あ」
「戻ってきたわ」
過去から戻ってきた俺は、ふぅっと息を吐く。
さっきまでは次から次へと映像が切り替わったせいもあってか、何かを考える余裕さえなかった……でもこうして落ち着いて物事を考えられるようになると、本当にアレは全部真実なんだなと思える。
「……信じても良いかもしれない……でも、それでも俺は思い出したわけじゃないんだ」
「そうね、そればっかりはどうしようも出来ない。けどあなたは刀祢、それは何も変わらないの」
「……………」
「ねえ、刀祢」
亞里亞さんが頬に手を添え、ジッと見つめてきた。
「魔女は、一度愛した相手を忘れられない……長生きをするけれど、そんな魔女も一瞬で死ぬ呪いがある」
「呪い……?」
「それは愛した相手に嫌われること……そうなった瞬間に、魔女は死ぬのよ文字通りね」
「っ……」
それはつまり、俺が彼女を嫌った瞬間に死ぬってことなのか。
まあそんなことは絶対にないけれど、だとしてもそれが本当ならあまりにも魔女という存在は重たいなって思わせられる。
「私はあなたを逃がさない……だから嫌なら私を嫌って」
「……そんなの無理に決まってるでしょうが」
「でしょうね……あなたは優しいから。よっぽど自分に酷いことをしない限り相手を嫌うことはしない……だからあなたは私を嫌うことはない」
亞里亞さんは少しだけ離れ、こう言った。
「あなたの気持ちを無視するのも嫌だから……だから今はまだ、ちょっとは我慢するわ。でも私はあなたを愛し続けるから……私はまた、あなたと夫婦になりたいから」
それは、あまりにも熱烈な告白だった。
現状はそれに対して上手く返事を返せないのはもちろんだけど、高校生の俺にはあまりにも重たい選択を迫られている。
ただ……猶予はもらえたらしい。
「ま、何も不安はないのだけどね。だってあなたは絶対に、私を好きになるって分かってるもの」
「それは……」
「むしろならない理由がなくないかしら? あなたは自分を一番に愛してくれる人を好きになるけれど、その相手がエッチならもっと夢中になるタイプじゃないの」
俺……どんな風に見られてるのさ。
でも確かに、そんな人が居たら好きにならないわけがない……愛してくれて凄くエッチとか男として最高すぎるじゃないか。
「魔女狩りには勇敢に立ち向かい、どんな時も私の好きな言葉をくれる優しい刀祢……でもベッドの上では誰よりもエッチで、私の体に夢中になってくれていた」
「あのぅ……めっちゃ恥ずかしいんですが」
「それだけ相性が良かったのよ。だからこそ覚えておいて――これからまた、完膚なきまでに惚れさせるから」
これは……大変なことになりそうだ。
そして、更に彼女はこうも言ってきたのである。
「私もそうだけど、世那も莉愛もあなたのことを好きよ。世那は言わずもがな、莉愛に至っては単純に一目惚れみたい。流石私たちの血を継いでいるだけあるわ」
だから頑張ってねと、亞里亞さんはウインクをして笑うのだった。
「莉愛がどういう経緯で産まれたのかは……まあ、今は言わないでおきましょうか」
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