運命は出逢う

「取り敢えず落ち着いてもらって良いですか!?」

「これが落ち着けるわけないでしょお父さん!!」


 俺にとって、子供なのかって問いかけはあくまで出来心だった。

 ……それなのに世那さんの様子は御覧の通りで、大人の彼女はどこへやらと言った具合に子供のような姿を見せている。

 まあ見た目は妖艶な美女だってのに、仕草が年下にしか見えないという何とも言えない感じだ。


(これは……いや、流石に説明しないとマズくないか!?)


 だってこんなことあり得ないだろどう考えても!

 何故ならこれを認めてしまったら俺が転生してしまったこと、そして世那さんが娘であることも……亞里亞さんが俺の奥さんだったことも……こんな現実じゃあり得ないことを認めることになっちまう。


(それが駄目なことかって言われたら分からないけど……もう何が何だか分からなくなるっての!)


 ってなると莉愛さんが孫……?

 あぁもうそれさえも考えたくないってば!!


「……ふぅ」


 取り敢えず一旦落ち着け……落ち着いて冷静に対処しよう。

 深呼吸を繰り返して息を整えるも、目の前には相変わらず感極まった様子の世那さんが居るので気が気でない。


「一旦落ち着きませんか――」


 そう問いかけたのと同時に、インターホンが鳴った。

 まさかと脳裏に浮かんだのは一人の女性……俺と世那さんは頷き合い、二人で玄関へと向かった。

 そして、訪れた人は俺の予想通りの人だった。


「こんばんは刀祢」

「……どもです亞里亞さん」


 やはり亞里亞さんだった。

 ただ……彼女は少し怒っているようで、俺の隣に立つ世那さんをキッと睨むように見つめる。


「世那、何をしていたの?」

「う~ん、何だろうねぇ」


 怒っている亞里亞さんとは対照的に、世那さんは余裕そうだ。

 俺はどうしようと頭を悩ませたものの、最終的に亞里亞さんもリビングへと招いた。


「ありがとう刀祢」

「いえ……」


 刀祢……さっきからもう、この呼び捨てにさえ今まで以上の懐かしさを感じている気がする。


「刀祢、少し良いかしら」

「え?」


 ジッと見つめてきた亞里亞さん。

 何だろうと思って不思議な感覚に包まれながら見つめ合っていると、彼女はそういうことねと頷き……そっと寄り添ってきたのだ。


「っ……」

「世那にもドキッとしていたみたいだけれど、やっぱり私には特別反応が強いわよね」

「えぇ~!? 私にだって凄くドキドキしてたけど!?」

「ふっふ~ん、やっぱり私が一番なのよ♪」


 これは……本当の本当に確実なのかもしれん。

 その後、二人を連れて再びリビングへ戻り……こういう時のために置かれていたわけじゃないが、ソファがそれなりに大きいので三人で座れた。

 俺を挟むように座る亞里亞さんと世那さんは、思いっきり体を引っ付けるようにしているので色々とマズイ。


(世那さんも相当だったけど、やっぱり亞里亞さんはヤバイ……だってもう無意識に手が伸びそうになるんだもんな)


 亞里亞さんを前にすると、自分が猿にでもなったようだ。

 もちろん流石に性欲に負けて手を出すような愚行は犯さないが、そんな俺の気持ちを打ち砕くように二人が圧倒的ボリュームの弾力だったり、スリスリと体を撫でてくるのだから勘弁してほしい。


「ねえ刀祢、取り敢えず話をしても良いかしら?」

「う、うん……」

「きっと衝撃的なことだと思うけど、是非聞いてほしいな」

「分かった……っ!」


 ここまで来たら俺も男だ――最後まで黙って聞くことにしよう。


「まず、あなたは生まれ変わりなの――私の夫である刀祢の、そして世那の父親でもあるわ」


 ハッキリと、そう言われてしまった。

 ただそう真剣な眼差しで言われたとしても、はいそうですかとまだ認めることなんて出来ない……だってそうだろう?

 夢のこととか色々とあるものの、やっぱり分からないことは多いんだ。


「……そんなの、流石に信じられないっていうか」

「そうね……その気持ちはもっともよ。そもそも普通ならあり得ないことだし、私の見た目にも疑問を感じているでしょ?」

「すっごく若作りしてるように見えるもんね」

「世那、今日の私は機嫌が良いから許してあげる」

「お~怖い!」


 喧嘩しなくても、そういう言い合いは止めてもらって。

 でも確かに亞里亞さんの見た目に関しては謎が多い……若作りで済ませられるレベルじゃないのは誰に目から見ても明らかだ。


「けど……確かに気になるけど、俺は純粋に亞里亞さんは凄い綺麗な人だと思ってます。こんなに綺麗な人は見たことがないってくらいに」

「ふふっ、ありがとう刀祢♪」

「ちょっと、私は!?」

「あ……もちろん世那さんも凄く美人です」

「いえ~い!」


 この人……本当に大人なのか……大人だよな?

 さっきから妙に幼児退行してしまっている世那さんはともかく、亞里亞さんの話に集中しよう。


「話してくれますか?」

「えぇ――まず、私たちは魔女の一家なの。現代に生き残る魔女のね」

「……魔女?」


 魔女って……あの魔女か?

 亞里亞さんのことを美魔女とか言ってたけど、たぶんそういう意味の魔女ではなく本当に魔女ってことなのか?


「そうね……世那、今日の所は先に帰ってくれる?」

「嫌だ、って言いたいけどここはお母さんに任せよっかな」

「ありがとう」

「良いの。それじゃお父さん、またね」


 あっさりと世那さんは居なくなり、亞里亞さんと二人になった。

 そして亞里亞さんは話してくれた――魔法というものに関しても実際に使いながら。


「これが……魔法」

「あまり人の世に干渉するものは使ってないわ。時には自分の感情が抑えられない時もあるけれど、それはあなたに関することくらいね」

「……はぁ」

「既に一人……っと、これは言う必要はないことね。とにかく、私たちは魔女の一家ということを覚えておいて」


 魔女……流石に魔法なんてものを見せられたら認めざるを得ない。


「そして、ある意味の本題はここから――私たち魔女は、濃密な長い時間を過ごした相手に不思議な力を与える。それは長生きをする魔女と別れが来ないように、一度死んでもまた出会えるように転生するという力を」

「……へぇ」

「長生きをすることで見た目はもっとも優れている時で固定されるのだけれど、それが私や世那の見た目の答えよ。そしてあなたが転生したと気付けたのは、私たち魔女はそれを知ることが出来るから」

「……はぁ」


 ごめんなさい……もういっぱいいっぱいだ。

 ただ彼女たち一家が魔女であることと、俺が彼女たちと触れ合っていたことで転生したということも分かった。


「でも記憶は……正直ないようなもんですよ? 夢で亞里亞さんたちのことを見たりとか、懐かしい気分になることはあったんですが」

「それも転生の影響ね……嫌だった?」

「嫌じゃないですよ? 困惑はしたし、何よりこんな美人が嫁さんと娘とかどんだけ徳のある前世なんだって思ったほどですし」

「……あなたは本当にそうだったわ。魔女である私と出会い、本来なら恐れるはずなのにそうやって受け入れてくれて……嬉しいわ凄く」


 そう言って彼女は俺を抱き寄せた。

 それから彼女は特に何かを言うことなく、ただ自分の体を俺に擦り付けるように……それこそマーキングするように離れない。


「正直、色々と我慢出来なくなってるわ。でもあなたの気持ちも私は考えたいから……だから少し、一緒に時間旅行しましょう?」

「え?」

「あなたと私が出会った時、私があなたを好きになった瞬間を見にね」


 どうやら今日はまだ、終わらないらしい。

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