オレノコドモ?
「ふふっ、落ち着いたかな?」
「……はい」
ニコニコと微笑む世那さんを前に、俺は下を向いて照れていた。
というのもさっきまでずっと、世那さんの胸に顔を埋めるような形で慰められていたからである。
涙を流してしまったのは夕飯の最中だったけど、ちゃんと完食した後にも同じように抱きしめられ、そして今に至るわけだ。
「世那さんは……」
「なに?」
「不思議な人……ですね」
「あらら、そうかな?」
娘の同級生の家に上がって料理を作ってくれただけでなく、ああやって慰めてくれる人なんてそうは居ないだろう。
彼女が大人で俺が子供だったとしても、ましてや異性で他所の……ただの近所のガキ相手にここまでしてくれるんだから。
「ドキドキ……したり?」
「っ!?」
隣に座った世那さんが顔を近付けてきた。
フワッと香る良い匂いと、角度的に見えてしまった服から覗く豊かな谷間……サッと視線を逸らしたが、女性は視線の動きに良く気付くと聞く。
「見えちゃった?」
「あ、いえ……その……」
「そういう服装だし全然良いんだよ。じゃあ改めて聞くけど、私の胸を見てドキッとした?」
「……はい」
「嬉しい♪」
な、なんで嬉しいんだ……!?
熱っぽい視線だけでなく頬もどこか赤くしながら、世那さんは更に体を俺に近付けてくる。
相手が同級生の母親だと分かっているのに、世那さんの見た目があまりにも若々しく美しいせいでお姉さんに迫られているような感覚に陥る。
「寂しいんだよね? ずっと一人で……でも分かる部分もある。私もお父さんが亡くなってからずっと塞ぎ込んだから」
「……そうなんですか?」
「うん――でも残されたものがあったから。お父さんが遺してくれた愛を体に取り込んで、その温もりが私を自殺から守ってくれたの」
「自殺……」
待て待て、いきなり重すぎるワードが飛び出したぞ!?
でも世那さんのお父さんということは亞里亞さんの旦那さん……この様子を見るに、本当に家族全員から慕われているようだ。
(夢のことは……言えないな……って、なんでそう思ったんだろうか)
夢……俺が世那さんに父と呼ばれ、亞里亞さんにあなたと言われる夢。
何日にも渡って続く夢は不可思議なものだが、流石にこんな夢を見るんですけどなんて言えるわけもない。
「あなたは……刀祢君はお父さんに似てる」
「それは……っ」
「だから私がお父さんにしてたこと、してあげる」
「……え?」
ニコッと微笑んだ世那さんは、更に顔を近付け……チュッと頬にキスをしてきた。
突然のことに慌てることさえ出来ない俺は、ただただ触れられた頬に手を添えてボーッとする。
「同じ家族だし、頬へのキスくらいは普通だったかな。悔しいことに、お母さんとは沢山のねちっこいことしてたけどねぇ」
俺は一体……なんて話を聞いてるんだ。
「えい」
「ちょっ!?」
トンと、そこまで強い力じゃないのに押し倒された。
腰に跨られ、両肩を抑えられ、少しだけ淀みの見える昏い瞳に見つめられ……けれども全然怖くなくて、むしろドキドキしている俺がどこまでもエロガキすぎて嫌になる。
「ここから何かしたいことある? あぁ違うね……してほしいこととかあるかな?」
「してほしいこと……ですか?」
「うん――なんだってしてあげるよ」
これは……というか、どういう状況?
一周周って冷静になってきたけど、こうして世那さんに押し倒されていることに対しドキドキはしている……けどそれ以上に、なんで心が温まるんだろう。
まるで仲の良い異性とじゃれているだけのような感覚……まあ、そんなことが言える仲の良い異性は居ないから違うだろうけど、でもだからこそ逆に落ち着いたんだ。
「世那さんは俺なんかより立派な大人で俺は子供……でも男女の違いはあるんですよ?」
だからちょっと、この悪戯好きなお姉さんをあっと言わせたくなった。
「こんな風に逆転されることだってあるんですから」
クルッと体を入れ替えるように動き、今度は俺が世那さんの上へ。
「……あ」
しかしすぐに気付く……こっちの方がマズいんじゃないかって。
「……っ」
俺の下になった世那さんは、これでもかと顔を赤くして目を逸らす。
その様子は大人の女性というよりは……さっきよりもずっと幼く見えたのが本当に不思議だった。
「私……初めてだから。優しくしてくれると嬉しい……っ」
「ちょ、ちょっと何言ってんですか!!」
もうやめだやめだ離れてしまおう!
そう思って体を起こしたのに、離れようとした俺の腰に世那さんは足をグッと回して逃げられないように固定してきたのだ。
そのまま腕も背中に回され、いつの間にかはだけていた胸元に顔を抱き込まれてしまう。
「むがっ!?」
「あんっ♪ ふふっ、立場は逆転だね?」
なんで……なんでさっきまでちゃんと服着てただろ!?
それなのになんで胸元のボタンが外れるだけじゃなくて、下着まで全部外れてんの!?
マズイ……ナニがとは言わないけど本当にマズイって!
「こういうこと、毎日したくない?」
「だ、だから何を!?」
「こうやって体を寄せ合うこと、エッチなことだけじゃなくても安心したりしない?」
「……それは」
ないとは言えなかった……だって確かにエロいって思ってるけど、それ以上にこんな風に肌で他人の温もりを感じることが安心するから。
「……おっぱい枕を思う存分感じちゃって良いんすか」
「あ……あははっ♪」
「な、なんで笑うんです?」
「ごめんね? おっぱい枕って言い方が凄く可愛くて……でもやっぱり変わってないんだなって安心したの」
でも正直、なんでこんなことになってるのかは分からない。
顔の位置を変えて頬が世那さんの胸に乗るよう調整し、頭を持ち上げる力を無くしていく……するとじんわりと沈んでいく俺の顔――ほんと、マジで何やってんだろ。
「可愛いなぁ刀祢君は」
「……普通なら軽蔑される行為ですよ?」
「私はしないよ。他ならない刀祢君だから――母さんも、莉愛もきっと同じじゃないかな」
本当に……なんで俺は彼女たちからの好感度がこんなに高いんだ。
その謎を口にしようとしたが、俺の口から出た言葉は全然違う物で、そもそも聞く気がないことだった。
でもそれを俺は口にしてしまった。
「世那さん……俺の子供とかないっすよね?」
「……え?」
この状況こそあり得ないことなのに、俺が口にした内容は間違いなくどこまでもおかしいもの……そのはずなのに、世那さんはこれでもかと目を見開いて俺を見つめ、そしてこう言ったんだ。
「思い出したの……? お父さん?」
「……………」
ごめん、取り敢えず一言言って良いか?
あの夢……マジで俺の前世なのかもしれない。
(いやいや、あり得るわけ――)
……いやでもなんか、世那さん感動したように泣いちゃったけどぉ!?
ほんとに……マジでどうしようこれ。
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