スコーンとジャム

「……それは、協力してくれる、と?」


 真。濡れた唇が空虚な弧を描く。

 ノラはそんなロイヤルミルクティー卿の様子に慄きながら真意を探る様に頷き返した。


「おれは冒険者だ。あんたが魔女だろうと魔女でなかろうと、隣人に手を差し伸べちゃいけない道理なんてないだろうさ」


 ロイヤルミルクティー卿は優雅に腕を組み直すと、組んだ両手に顎を乗せた。


「ふむ、それは私達が運命共同体になるという認識でよろしいかな?」


 なんだ運命共同体って、そんな大げさな事言い出すやつ初めてみたな。

 ノラは掌を横にひらひらさせた。


「うんにゃ、一時的だよ。おれがセリカの街につくまでだったら協力しよう。そもそもの話、運命共同体っつうなら今の状況も一緒じゃねえか。結局、このままじゃ貴族殺しの罪で一発でお縄だろうよ」


 そう、おれ達は一方的な猶予期間を楽しんでいるだけだ。列車内では自由にしてやるから大人しく罪を受けろよ?と言う状況である。

 おれはロイヤルミルクティー卿の眼前に爪を一本突き出した。


「……ともかく!セリカの街に着くまでだ。何をしたいんだかわからんが協力してやる」







 ロイヤルミルクティーのおかわりとあまりのケーキを貰って、再び、ノラとロイヤルミルクティー卿はケーキスタンドを挟んで向き合っていた。

 かの人とボカしたのはあまり混乱を招きたくないからだろう。とはいえ、この列車内で死んでるのはゼルセレン卿しか居ないのだから消去方で特定は可能であるが。


「彼の人が誰か特定が難しい以上、他に出来る事はどうやって死んだかを特定する事だろう?」

「死因って、多量出血かショック死じゃないのか?」


 誰だって、頭をもがれたら失血死かショック死だろう。罪人の旅人にも斬首刑が有効であることから、旅人にも例外は無い。

 その問いかけにロイヤルミルクティー卿は頷き、ロイヤルミルクティーを一口飲んだ。


「そうだね。その認識は合っているよ。だ」


 おれは余計頭の中がこんがらがった。一体どういう事だ。元々考えるのが苦手なおれは癪だが素直に聞いてみることにした。


「……最初から話してくれ」


 そうノラが諦めた様にそう言うと、ロイヤルミルクティー卿は人差し指を顔の横に添え、空気を混ぜた。どうやら癖らしい。


「――いいかい?人間の首をもぐなんて尋常じゃない殺し方だ。手を下した犯人は余程殺意があったか、何か事情があったか。その殺し方しか出来なかったか。だ。

 犯人はこの列車内に居ないと言ったね?ならば出来るのは現場検証だ。それともう一つ大いなる疑問が待ち構えているが、それには確証も証拠もないから黙しておくことにするよ」

「最後のは聞かなかった事にしておくとして、殺し方が知りたいのか?」

「そうだけど、それだけではないよ。情報が足りない。

 まず、どうやってゼルセレン卿を呼び出したのか、二つ目にどうやって首を切断したのか。三つ目、なぜ首を切断したのか。明らかにしておきたいのはこの三つだ。優先順位は一つ目が優先だね。

 なんて言ったって、一つ目は証言があれば事足りるんだもの」

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