一等客室にて
「――今朝の事が知りたいんだが、今いいか?」
すっかり寛いでいたらしい3人組は、おれの来訪に首を傾げた。
マモルとタケルは視線で会話をすると、「ええ、大丈夫ですよ」と言って客室に招き入れた。
ノラは体を屈めて客室に入ると、後に続いてロイヤルミルクティー卿も客室に入った。どうやら、おれの身体に隠れてロイヤルミルクティー卿に気が付かなかったらしく、もう一度マモルとタケルが視線で会話をしていたのをノラは見逃さなかった。
新米冒険者3人組の客室は一等客室である。広さは二等客室の二倍あり、寝台の上でミミコがのびのびと身体を伸ばして飾り刺繍を弄んで居た。寝台とソファと机は別々に誂えてあり、刺繍の入ったかけ布団が豪華である。寝台の手前に腰掛けて武器の手入れをしていたらしいマモルとタケルが空いていたソファをノラとロイヤルミルクティー卿にさし示した。
「悪いね、休んでいる所に」
「いえ、武器の手入れをしていただけなので」
「中々、いい武器だなそれ。大事にしたほうがいい」
武器を褒められて、二人はぱっと表情を明るくした。
「え、わかるんですか!」
「これ、旅立つ時に師匠にもらったんだ」
二人が持っているのは鍛治師達の連合が扱う商品だ。丈夫で武器それ自体に癖が無く、初心者から中級者に愛用者が多い。なんなら、初心者の頃から武器を変えない、なんて奴もいるもんだ。
「君の背負っている武器は形状が違う様だけど」
おれの背中に視線を注ぎながらそう言ったのはロイヤルミルクティー卿だ。さっきから謎に背中ばかり見てくるのはなんなんだ。
「おれの武器は特注品だからな」
正しくは、おれの一番使いやすい形を追求したら常人には扱いにくい形に落ち着いた、だがな。
ここに来る前、客室に一度戻り、武器を持ってきたのだ。おれの使う武器は室内で取り回しがしにくい。おれの体躯ですら屈まないと通れないようなクソ狭い通路しかない列車内では、咄嗟に動けないのは命取りだ。
自由に動くのもままならない狭さの場所にわざわざ取り回しにくい物を持ち込む益はない。正直、この状況は長年冒険者をやっている身からすると危機感を覚える。
武器を分解して背中に背負ってこそいるが、威嚇以外の意味がない。分解している状態でもまあ、使えなくもないがイザと言う時の為である。なんせ、武器を取り出すよりも爪を立てた方が早い。
「ノラさんの武器って……あの、見せてもらえたりしますか?」
とマモル。隣でタケルが熱心に頷いている。オトコノコの夢ってやつだよな。よくいろんな奴に絡まれるんだよな。酒の席の話の種にゃなるがな。
「ん?ああ、いいぜ。おまえさんらみたいなのは好きだろ」
おれはいつもやるように武器を合体させると机の上に置いた。
おれの武器はツインソードと呼ばれている類の物だ。二つの剣を柄の部分でくっつけたような形状をしている。いや、実際にくっつけている。
個々の刃渡りはおよそ1メートル。全長2,5メートル。月を模った半月を思わせる刀身はしなやかで中々気に入っている。
その上、大事な弟の傑作である。当の本人はこれに超える作品を作ると息巻いていたが、一体いつになるのやら。気長に待つとしよう。
おれの無骨な武器は客席車両の机には些か大きかったらしく、刃先が机からはみ出た。よくなめしたラビッターの皮で作った鞘をつけているから不意に触ったりしなければ怪我はしないだろう。
「変形武器だ!」
「わ、すっげ。ファンタジーじゃん」
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