ゼルセレン卿の噂
おれは頭を抱えたかったが両腕を縛られている事を思い出して居住いだけ変える事にした。
いっそ、頭痛でもしてきた方がよかったかもしれない。
くてんと仰向けになると湿った毛皮の匂いがした。吐く息が白い。ロイヤルミルクティー卿は寒くないのだろうか?
「さってと、死体はどこかなー?」
んな宝探しみたいなテンションで死体を探すな。
「ん、あった!」
毛皮をあさっていたロイヤルミルクティー卿が喜色に富んだ声色で喝采をあげた。どうやらあった?らしい。
「やっぱり!私の勘はよく当たるね」
楽しそうですらある。ロイヤルミルクティー卿はゼルセレン卿の死体を引っ張り出すと毛皮をどかして広い所に寝かせた。
ゼルセレン卿の身長はおよそ1メートル70センチ。首ごとなくなっているから正しい身長はわからないが、もし首があったらそんな感じの身長だろう。
濃いオリーブ色の狩猟ジャケットに白いスラックス。金色のレースで縁取られたジャケットは上等な生地で売れば中々金になるだろう。ジャケットの下の白いシャツには所々乾いた血の黒ずみが飛び散っている。
「んで、一体何が気になるんだ?」
「……ん?ああ、色々ね」
「ふうん、色々、ねえ。例えば?」
「え?ううん、なんだろ。何かが引っ掛かるんだよね」
ロイヤルミルクティー卿は顎に手を当てて、首を捻った。眉間に皺がよってる。
「結局何もわかってねーのかよ」
「何も、とは失礼な!ロイヤルミルクティーの神が私に囁いているのさ。かのゼルセレン卿の死体が怪しいとね!」
と、そう言って胸を張るロイヤルミルクティー卿。
(なんだロイヤルミルクティーの神って)
…………。
ロイヤルミルクティー卿はじっとゼルセレン卿の死体を眺めると、満足げに頷いた。
「よし、何もわからん!」
「ダメじゃねーか!!」
「だよねぇ!知ってた!!!」
「……じゃあ、なんで見たんだよ」
「何か証拠でも無いかと思って?」
「なあんで疑問系なんだ。怪しいつったのお前だろうよ」
「うーん、それもそうだね。折角だから、一通り調べるだけ調べてみようか」
「……行き当たりばったりかよ」
「事件が解決すれば問題なしだろう?本当は事件なんて起こる前に解決してしまうのが一番なんだけどね」
そう言うとロイヤルミルクティー卿はゼルゼレン卿の死体を調べ始めた。
まあ、そりゃそうだろう。この男にそんな事が出来るのかは甚だ疑問だが。
カフスの裏側を覗き込み、懐を探る。今の所それらしいのは指に嵌っていた印籠と、蜜蝋で封を押された羊皮紙だろうか。
「所で、けむくじゃらの君。君はゼルセレン卿の顔に見覚えはあるのかい?この死体には、ないけど」
「あ゙?無えよ。さっきも言った通り、ここいらに住んで無いからな。おれが住んでんのはもっと北の方だ」
「へえ、北。北っていうとどこら辺なんだい?流石に北の大陸なんて事は無いだろうさ」
「あっち側にゃ、人は住めねぇよ。おれが住んでんのはセロニカだ」
「君、思ったより遠い所から来ているんだね。山脈の反対側じゃないか」
「だからゼルセレン子爵ってのは噂を聞いたことはあっても見たことなんざとんと無いぜ」
「噂?一体どんな噂だい?」
「って言っても、よくある貴族の噂だ。四人兄弟で野心家な次男坊が怪しい動きしてるとか、長男は商人の才能がなさそうだとか、三男が放蕩家でそいつを当主にしたい商人ギルドの重鎮がいるだとか、まあ、そんな所だな」
「知っているじゃないか!…………所で、気になったのだけど四男だけ噂が無かった様だけれど?」
おれは何を当たり前な事をと内心、首をひねった。
「四男?さっき会ったろ?」
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