貨物車両にて2
「はぁ?なんでさっきそれを言わなかった?」
「簡単さ、根拠はロイヤルミルクティーが示しているからね」
そう言い切って、ロイヤルミルクティー卿は身を翻した。ノラは慌てて身を起こした。
何をするかと思えば、ロイヤルミルクティー卿は積み上げられたラビッターの毛皮の山を登り、何かを探しているようだ。
「閉鎖空間の今じゃあ浅い根拠を提示しても意味がないさ。なんて言ったって、皆一様に動機がない」
「動機、動機ね。あの3人も商人の夫婦も何やら後ろめたいことがあったんじゃねえかなって思ってるけど」
「根拠は?」
「勘」
勘というか、危機察知能力とかいうものかも知れない。
尻尾の裏のあたりの毛がゾワゾワするのだ。不味いなと思った奴は後で横領とか闇討ちしてお尋ね者になったりしているので案外馬鹿にならないなとノラは思っている。
「そっか。勘、勘ねえ。案外あっているのかも知れないよ?」
と、その時、ロイヤルミルクティー卿の右手が何かを掴んだ。どうやらかなり重量があるようで、ロイヤルミルクティー卿が軽く引っ張ってもびくともしない。
致し方なく周囲の毛皮を退けると全貌が明らかとなった。
それはずた袋であるようだった。繊維の粗い麻で編まれた袋は何かゴツゴツしたものが入っている。捺印されたエルドラド山脈のマークが歪に歪んでいる。
横では力を使い果たしたロイヤルミルクティー卿が汗だくでひっくり返っている。モヤシだったか。
「んで、これがどうしたんだ?」
「容赦、ない、ね。君。もうちょ、っと休ませて、くれないか?」
……すまん。
「んで、これが証拠なのか?」
汗を手持ちのハンカチで拭ったロイヤルミルクティー卿は体を起こすと自慢げに胸を張った。
「まあまあ、見ていてくれたまえよ」
そう言って、ロイヤルミルクティー卿はずたぶくろの中に手を入れた。ノラは芋虫のように這いずってロイヤルミルクティー卿の手元がよく見えるように移動した。
「……なるほど、猫は液体とは本当だったか」
「あ゙?なんか言ったか?」
「いや何でもないさ」
そこから出てきたのは。
「ラビッターの……肉?」
「そう、とっても美味しいお肉さ。……最も、それは新鮮な内は。だけどね」
そう、いかにも怪しげなずた袋の中に入っていたのはラビッターの肉である。丁寧に皮を剥がされ、ピンク色の脂肪が露出している。でっぷりしたその様相からかなりの大物であった事は想像に易くない。
ラビッターは食料の少ない冬を越すために、分厚い皮下脂肪を蓄える性質がある。引火性のある脂肪は、軸が必要が無い天然蝋燭だ。腐りやすい頭や足はすでに落とされ、断面からやや変色した肉と骨とがのぞいている。どうやら悪くなっているようだ。
冬のミスティアリカの肉屋の軒先によく吊り下がっている光景だ。多くは脂肪を剥がした後、香草をつめ、焼き上げたりする。
――――獲物が取れてから一週間以内であれば、だが。
ラビッターの肉は一週間が賞味期限だとされている。死んでから一週間を過ぎたラビッターの死体は妙に甘い匂いがし、脂肪も異様に甘く、一口以上食べた者は腹を下すという。
よって、おれ達冒険者の多くは短期間でミスティアリカの街とエルドラド山脈とをかなりの頻度で往復する。
誰だって一銭も多く稼ぎたいだろう?首を落として血抜きをしたラビッターの死体はそれはそれは金になる。
肉は肉屋に、脂肪は蝋燭屋に、毛皮は舐めし職人の元に。右足は幸運を運ぶ証と言われ、貴婦人の間で人気だとか。
解体と買取はギルドが受け持っている。少し手数料がかかるが、それでも、小柄なラビッターでも三日は暮らせる金子が手に入る。
この時期はミスティアリカの街とエルドラド山脈の付近に住む人々にとって掻き入れ時である。
「なぜラビッターの肉がここに?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます