食堂車両にて

「私はここの乗務員をしているローレッドと申します。先ほど、遺体を発見した時に取り乱してしまいまして、こちらのお二人が駆けつけてくれたんです」


 所変わってここは食堂車両。依然、車輪の音は響き続けている。乗客と乗務員の多くが食堂車両に集合している。

 ずらっと白い布の掛かった四人掛けのテーブルを品の良い照明が照らしている。

 食堂車両には、4人がけのテーブルが幾つかと大人数用の長テーブルがある。観光客や貴族向けの様である。その空間に真剣な空気で、乗客のほぼ全員揃っているのは異様な光景だろう。

 ローレッドと名乗った女はその名前の通りくすんだ赤の髪をきっちりまとめたさっきの乗務員だ。

 おれとロイヤルミルクティー卿、それから乗務員が横並びに、座っている。おれ達の対岸は乗客であろう先ほどの3人組と貴族のような格好をした夫婦が座っている。

 おれはそっと周囲を見渡した。窓の外はあいも変わらず雪が降り積もっている。おれの正面から右には3人組。左側には夫婦が座りこちらを好奇心と猜疑心の混ざった目で見ている。

 ざっと自己紹介した後、3人組のリーダーの男が口を開いた。(隣の奴が自信満々にロイヤルミルクティーの魔女さと自己紹介して引かれていた一幕はあった)


「どうしてあそこにいたんですか?」

「自室で休んでたら悲鳴で叩き起こされた」

「それがローレッドさんの悲鳴だったと」


 ふむふむと頷くリーダーの男。明らかに優男である。マサルと名乗った青年はいかにも純朴な青年という程で、白と青の服を着ている。腰にショートソードを下げた明らかに冒険者に成り立てな立ち振る舞いである。

ちなみに、片腕には白い猫耳を生やしたいかにも、な娘がひっついている。こちらはミミコと名乗った。猫混じりミミコはマサルの腕に頬擦りしている。


「んで、そこの奴の提案に乗ったのをあんたらに見られたって訳だよ」


 無論、そこの奴とはロイヤルミルクティー卿である。


「本当か?そこの女と共謀してたんじゃ無いのか」


と、3人組の男。こちらはタケルと名乗った。タケルはやや粗野な印象で背中に巨大な剣を背負っている。咄嵯に抜けない分強襲に弱そうな装備である。威力は出そうだがな。どうやって戦線を維持しているのだろう。少し興味深くなってきた。


「おいおい、たとえ共謀してたってどんな利がおれにあるってんだ?」

「俺たちはゼルセレン子爵の護衛だぞ……!」


 ゼルセレン子爵……確か何処かで聞いたことがあるような……。


「ふむ、ここいら一帯の有力貴族だよ。ついでにさっき死体で亡くなった人でもあるのさ。ダスキンモップの君」

「嗚呼、通りで。生憎だがおれはここいらに住んでなくってな。顔も見たことがない相手をどうして殺そうと思うんだ?」


 この初心者パーティが護衛なわけだ。列車内はあまり危険がないと判断していたのだろう。執事やなんかも同行していない所を見るに、お忍びって所か。それか家出かなんかだろう。

止ん事無い人々のことなんざおれにゃあよくわからんが、曰く付きであることは確かであろう。初心者パーティが貴族の護衛なんて曰く付きでしかない。ゼルセレン伯爵は最近代わりして長男だか次男坊だったかが当主だったはずだ。

 どうやらこのタケルというやつはどうしてもおれを犯人にしたいらしい。


「ぐ、そ、それは、この女の計画に乗った、とか」

「おれはこの列車を使うのが初めてでな。何ならギルドカードを確認してもらってもいい」


 ギルドカードは多くの冒険者にとって身分証明書の代わりを果たしている。金を預けたり、国境を跨ぐ時の検査に必要になる。当然、旅の履歴みたいなものも残る。それによって審査の時間がかなり変わることもあるので重要だ。

 知り合いの旅人に言わせれば、大変便利なマイナンバーカード。ただし、失くすとひたすら面倒。それがギルドカード。らしい。

 タケルは顔を赤らめて黙り込んだ。どうやら、直情型だったらしい。どうしたもんかな。

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