二等客室にて2

「沈黙長くないかい?……ううん、確定事項じゃないから、かな、だってほら、君が華やかな所にいるの失礼ながら想像できないし。あ!もしかして当たってた?」


 俺は深く深くため息を吐いた。


「半分」

「え」

「半分あたってる」

「本当?やったね。正直、自信なかったんだよねぇ。……所で、伯爵?伯爵って私のことかい?」

「そうだが?むしろ何とお呼びしましょうか?」


 からかう調子を音に乗せてニヤリと微笑めばたじろがない人間は少ない。眼の前の男は少ない方の人間だったようだ。


「いや、それでいいけども……では、けむくじゃらの君」

「あ?それって俺のことか」


 毛むくじゃら。毛むくじゃら、ね。間違いはないな。


「それ以外に何があるかね。全長二メートルほどもあるネコチャンに相応しいあだ名だと思うけど」

「ネコチャンねぇ。よく呼ばれる言葉だよ人間様」

「不愉快かい?」


 ふと、気遣わしげな表情を浮かべて伯爵は言った。


「ま、良く知らねぇ人間さまからそう呼ばれるのは多々あるからな。あんまり気にしねぇよ」

「では、自己紹介といこうか!私はロイヤルミルクティー卿さ!」

「……なんでだよ」


 なんだよロイヤルミルクティー卿って。確実に偽名だな。

いや、旅人の中でも偶に変な名前の奴がいるが同類だろうか?いや、伯爵の見目から確実にコイツは旅人だと思うが、そんなタイプには思えない。


「私が、君と仲良くしたいからさ!それ以外あるかい?」

「俺はごめんだね」

「そうか、ならば君は毛むくじゃらの君に固定だね」


 おれは思わず牙を剥いた。


「わあ、牙すご」

「あ?」

「いや、失礼。思わず」

「んで、人の金で飲むロイヤルミルクティーは美味いか?」

「勿論、美味しいさ。ロイヤルミルクティーは何時も美味しいに決まっている。なんて言ったってロイヤルミルクティーだからね!…………もしかしてそれって金返してくれるんだろうなって言う皮肉だったりする?」

「もしかしなくてもそうだよ。図々しく頼みやがって」

「心配しなくても大丈夫さ。これはウェルカムドリンク。つまり、サービスだよ、けむくじゃらの君。むしろ、頼まない方が損をするってものさ。それとね、お金のことは心配する必要はないよ。なんたって私は」


 ロイヤルミルクティー卿はそう言葉を切って髪の毛をあきあげた。






「――――――――魔女だからさ」

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