二等客室にて
「どうしてこうなった……」
ノラは頭を抱えていた。
揺れる車両。
外は吹雪いているらしく、洒落たガラス窓に打ち付けられた雪が滑り落ちてゆく。目がちかちかするような彩度の毛足の長い絨毯はノラ自身の足音でさえ掻き消してしまいそうだ。
客室は快適な温度に保たれている。大方、
座りが悪いのに加え、目下、原因は目の前の人間にあった。
「どうしたのだい?頭なんて抱えて。季節性偏頭痛かね?」
当然の様に紅茶を啜る男。男の身なりは貴族の士爵の様なちゃんとした物だ。体にフィットしたシャツにハリのある生地で仕立てられたベスト。テーパードのスラックスに磨き抜かれた革靴が光っている。
違和感といえば、外套と荷物がない事くらいか。
「オメーのせいだよ!」
机を叩いて怒鳴ると、男はおっと。と言い。ティーソーサーを持ち上げた。
「危ないじゃないか。近所迷惑だよ。君。隣もいるんだろう。それにロイヤルミルクティーが溢れてしまうじゃないか。勿体無い」
チラリと壁を見つめる男。確かに、この車両の階級はそれなりに高いが、最上級クラスの、一人一両というタイプではない。俺は渋々声を落とした。
「オッマエなあ……」
男はティーカップを揺らすと窓の外に目を向けた。
「なあに、急いでいるんだろう?婚礼にそんな荒ぶった様相で訪れたら驚いてしまうよ」
「オマエ……一体、どこでそれを」
ノラは皮膚の上を殺気が走るのがわかった。男は人差し指を左右に振った。男の、銀色の瞳が怪しく光る。
「……なあに、簡単な事さ。ここにロイヤルミルクティーがある!QEDさ」
「は?オマエ意味わかんねえな」
おれがぶった斬ると男は机に撃沈した。
確かに男が飲んでいるのはロイヤルミルクティーだが、だから何だと言うのだ。
「……で?ロイヤルミルクティーと俺が急いでいることに一体何の関係があるってんだい伯爵様?」
「ふむ、特にこれと言った理由はないのだがね。
まず一つ目。荷物から出ている花束。それ、ユスドミレニアの定番の品だろう?しかも一等上等なものだ。きっと、手土産かなんかじゃないかな。
二つ目。君は冒険者だ。冒険者ならこの時期はラビッターを討伐しながら雪解けまで滞在するのが普通なはず。間違っても辛うじて営業している鉄道なんかには乗らないはずだ。この列車に乗っているのが可笑しい。
……となると。列車で移動せねばならない不慮の事態が発生したに違いない。そういえば連日の吹雪で配達物の到着が遅れているらしいね。
馬車じゃ間に合わないと思ったんだろう。なんせ、時間が列車の三倍はかかる。
よって、君は移動手段として列車を選択した。こんなところ、かな。どう?」
少女のように首を傾ける伯爵。おれは咄嗟に黙り込んだ。
「………………何で自信なさげなんだ?」
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