六ヶ月前
汽車と出会い
大陸の北に位置するこの国の冬は長い。
山脈エルドラド。大陸の北に横たわるその山脈は肥沃な大地と清涼な雪解け水を麓の国々に届けていた。
山脈エルドラドの標高の高い所にはラビッターという魔物がいる。三メートルほどの体躯で、“ウサギ“とかいう生物に似ている魔物だ。
三センチほどの分厚い体毛は越冬に丁度よく、真白な上等なものは特に愛好家がいるらしい。肉は足こそ早いが淡白な味わいで汁物によく合う。
そいつらは冬の間に繁殖する。
問題はその求愛行動にある。ラビッターという生物は飛び跳ねる高さでイイ雄かどうかが変わるらしい。
迷惑なのは麓の国の人々だ。雪の積もった山頂でそんな奴らが求愛行動をすると雪崩が多発するという寸法だ。
草食動物ゆえ、多産なラビッターは毎年の雪崩の大きな元凶である。
ゆえに、多くの冒険者が討伐の出稼ぎに来ていた。
ノラは急いでいた。
ユスドミレニアは港町である。港町であるがゆえに、積雪量こそ少ないが海から吹き付ける風と、霊峰エルドラドの山頂から吹き付ける風が混ざり合っている。
路上に積まれた雪に反射して群青の朝焼けが光る。
磯の香りと雪の匂い、魔石の燃える人工的な甘い匂いにノラは顔を顰めた。煤けた煙突から黒い煙が立っている。赤い車体の大蛇が黒い煙を吐いていた。
(……あれが列車とか言うやつか。でかいな)
縦の長さは三メートル位で、頭の方にある煙突は一つ飛び抜けて高い。逆鱗に当たる部分には黒々とした石が積まれ、胴体から尻尾にかけて二十メートルほどの箱がいくつも繋がっている。
いつもはボロボロの馬車に揺られ、故郷に帰るのが常だ。去年の今頃は未だラビッターを狩る為に山麓に居た。
チャッチャッとノラの鉤爪が地面を引っ掻く。行きより重くなった旅行鞄がずり下がるのが不愉快だった。
ノラは重苦しいため息を一つ吐いて、視線を彷徨わせた。専用の上り口があるようで、列車の乗り込み口は一段高くなっている。
ノラの前に人間が現れた。人間はどうやら路地裏にいたようだ。所々、衣服が汚れている。人間は驚いているノラに構う事なく口を開いた。
「助けてくれたまえ。そこで厚揚げにあってね」
は?何言ってんだこいつ。
厚揚げったあれか。旅人が好物のワショクってやつの一つの、酒のアテにダイズソースで煮て出てくるやつか。トウフとかいう奴を揚げた奴。トウフ、高いんだよな。アレを買うんだったら、晩酌にチーズが増やせる。
「おっと間違えた。厚揚げじゃない。カツアゲだ。お陰様で身分証から何から奪われてしまったよ」
人間は大袈裟な仕草で腕を広げるとそう訴えた。人間の男の様だった。やたらと頭の髪が長い人間だ。
「そうか、災難だったな。じゃ」
俺は頷いて歩き出した。
「いやいや、待ってくれたまえ」
「あ、んだよ。俺は急いでんだ」
男はおれに縋りついた。
「ええーっと、人が困っているんだ。君という人はギルド心得を無視するのかい?ええと、確か一期一会を大切にし隣人を助ける事、だったかな」
ノラは首を横に振った。
「オレ、ニンゲンのコトバワカラナイ」
間
「どうしてこうなった……」
ノラは頭を抱えていた。
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