ロイヤルミルクティー卿は相棒をもふもふしたい!

うにょると

プロローグ 現在 セロニカ郊外にて

 かのロイヤルミルクティー卿とおれの出会いは、その劇的な、劇物的な人物はおれの人生の確かな変化点と言えるだろう。


 おれとロイヤルミルクティー卿は屋敷で紅茶を飲んでいた。招待は何時も通りロイヤルミルクティー卿からで、おれはそれに招待されたというわけだ。

 そこらの質屋に持って行ったらおれ達が三日は暮らせるような絨毯が敷いてある。その上に乗るのは猫足の秀美な丸い机だ。

 ロイヤルミルクティー卿は優雅にロイヤルミルクティーを一口啜るとこう言った。


「やはり素晴らしい飲み物だ。ロイヤルミルクティーというものは神が創りたもうた飲み物に違いない。聖書という聖書の神々の思し召しの部分を全てロイヤルミルクティーに差し替えたって問題ないと思わんかね」

「…問題しかないと思うが」


 なんでこいつとおれは茶なんぞシバいてんだろうな。呆れの混じった表情を向けるがロイヤルミルクティー卿はそれに見向きもしないでロイヤルミルクティーを啜っている。


「ノラ君は相変わらずツレないないね。ノってくれたっていいじゃないか」

「却下だ。伯爵の言っている事を鵜呑みにしたら辞書にいくつロイヤルミルクティーの項目が増えるか知った事じゃない」

「それはなんて素敵で素晴らしい事じゃないかい?」

「は?誰が必要なんだそんなクソの役にも立たない辞書。暖炉の燃えさしにしか使えないじゃねえか」


 そう言ってノラは毒づいた。猫舌にはまだ早いロイヤルミルクティーを横に置いて、ティースタンドのケーキに手をつけた。


「燃えさしとは酷いな。今日のケーキは下町のルーノアールの新作さ。ああ、素手で掴むなんて無粋なことはせずに、きちんとトングを使ってくれたまえよ」

「わ〜ってるよ」

「なら良いのさ。何時かみたいに丸ごといかれたら困るからね。何たってこの私だって楽しみにしていたのだから」

「そのうち横に丸くなるんじゃないか?」

「いやいや、丸くはならないよ?!なってない…よね?」

「おれが知るか」


 真っ白いケーキは見るからに美味しそうだ。トングで一つ掴むと皿に乗せた。ふわふわのホイップクリームにシロップが染み込んだスポンジ。カーラの奴め、また腕を上げたな。おれは一人立ちをしていった下の妹を思った。

 伯爵を見ると、伯爵もケーキに舌鼓を打っている。


「素晴らしい!甘さ控えめなクリームにしっとりしたスポンジ。ロイヤルミルクティーによく合うとも!」

「うるせいよ、このきな粉餅野郎が」

「この素晴らしさ、賞賛せずにはいられないとも!それとも何かね?君にはこのケーキの美味しさがわからないとも?」


 おれは呆れ返ってため息を溢すと一口茶器の中身を煽った。名前は詳しく知らないが、何時も啜っている紅茶よりも香り高い気がする。


「そういや、どうだったんだ中央」

「嗚呼、魔女の集いとかいうやつだね?悪趣味だったよ」

「鯖とトマトとか言ってなかったか?その組み合わせは旨いだろ」

「たしかにそれは美味しそうだね。って違うよ?!……サバトだよ、サバト」

「へぇ。……そういや、食料庫にトマトがあったな。悪くなる前に使わねぇと」

「ちょ、ノラくーん聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。今日の夕飯は鶏肉とトマトの煮込みにするが食いにくるか?」

「うん、やっぱり聞いてなかった!夕飯、夕飯ね。本来、私には必要ないのだけど……」

「あ?要るかって聞いたんだよ」

「折角だけど、今日はやめておくよ。ほら、今日君から聞いた話を纏めないといけないし」

「そうか、ジェニファーが寂しがってたんだがな」

「近々顔をだすよ。今日の所はジェニファーに宜しく言っておいておくれ。というか、ジェニファーってとっくに家を出てなかった?」

「いま、家に帰ってきてんだよ」

「そういうのは先に言ってくれないかな?!?!んんん、所でジェニファーは息災かね?」

「嗚呼、ピンピンしてらぁ。婿君が仕事っつうんでチビと一緒にきてんだよ」

「ジェニファーの息子さんかぁ。さぞや元気だろうね」

「ああ、元気さ。チビはかくれんぼの名人だからな。将来が楽しみだ」

「家族総出で構っているのかい?」

「休みの奴ら総出でな。みぃーんなちやほやしやがる」

「そりゃあ良い。きっと良い子に育つよ」


 ひとりでに納得している伯爵。お前はジェニファーのなんなんだ。


「んで、結局何の用で呼びつけた。純粋に茶ぁ飲みたかったなんて訳じゃねぇんだろ」

「さすが我が相棒だね。御明察で」


 そう言うとロイヤルミルクティー卿は茶器を傾けた。


「実はね、この間の、ほら、君がジェニファーの結婚式に行く前のやつ。その事件の報告書の詳細を天眼の魔女がご所望でね。私だけでは補いきれない箇所が多いだろう?だから、今日呼んだのさ」

「はあ、お前も大変だな」

「なんてったって私はミルクティーの魔女だからね」


 そういうと、ロイヤルミルクティー卿は胸を張った。

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