第4話 薬草と今後の生活
アルメロ島は島の中央にあるブレダ山が地下水を豊富に蓄えている関係で、その水を求めてリェージュ大陸を出発した多くの船がアルメロの港に寄港し、水や果物を補充していくことになっています。
船の旅では水や果物は非常に貴重なものになるのですが、アルメロ産の水と果物は腐らずに長持ちするので非常に重宝するらしいです。アルメロにはまだ女神の加護が残っているからなんてことを言うんだけど、27の群島を支配するエレスヘデン王国では女神の力が非常に弱くなっているのだと船乗りさんたちは言っている。
昔は王族が住み暮らすアルンヘム本島まで大型船が入ることが出来たのに、今では海流の変化から近づくことすら出来ないそうで、大陸からの船は本島には寄らずに、群島の外郭に位置するアルメロ島で用を足すことになりました。
多くの船が寄港することで人の出入りが多くなり、アルメロ島はエレスヘデン群島の中でも豊かな島へと成長をした。だからこそ、アルメロの孤児院は他の島の孤児院と比べても生活が豊かなことでも有名で、他島からわざわざ我が子を捨てに来る親すらいるわけです。
四年前に私はアルメロの孤児院で保護されることになったんだけど、黒髪、紅目の子供が島で生まれ出たことがないため、他島から連れられて来られたのだろうって言われています。
孤児院の子どもたちは、外に出る時には二人以上で行動することを推奨されるんだけど・・
「アン、そろそろ崖下にツユムラサキが咲くはずだから、今日はそっちの方を見に行くぞ」
と、前を歩き出したフィルが言い出した。
ツユムラサキとは純白な花弁の可愛らしい花で、崖の合間に咲く希少な花は、真っ白な花弁と花芯が解毒剤にもなるので高値で売買されるのです。お金になる薬草については非常に詳しいフィルは、いつでもお金になる薬草を採取しに行こうと言い出すんだけど、
「それって一日がかりになるよね!遠いし危ないし!疲れる行程になるのは間違いないよね!」
いつだって簡単な薬草採取で済まさないところがある。
私は見かけがこれなので昔からボッチ決定なところがあるんだけど、フィルは女の子たちから人気がありすぎるため、あえてボッチになることを選んでいるような男の子。
孤児院では外に出る時には二人以上で行動をすることを推奨しているため、自然とボッチな私と、あえてボッチを選んでいるフィルが一緒に行動することになる。そうすると、私の意思なんか全く尊重されずに、いつでもフィルの都合で予定が決められることになるわけですよ。
デボラとかエステルとか、私がフィルと一緒にお花畑で薬草を摘みながらキャッキャと楽しんでいるんじゃないかと思っているみたいだけど、全然、そんなことはなくって、いつでもお金のためにハードな薬草採取をしているような状態なのです。
鬱蒼と生い茂る森の中を、草木をかき分けながら道なき道を進み、山を登り、ロープを巻き付けながら崖を下りて薬草を採取するわけですよ。本当に危ないところはフィルが行ってくれるけれども、結構ハード!結構疲れる!だから私はフィルと一緒に薬草摘みに行きたくない!
孤児院近くに生えている薬草だったら一人で採取しても良いと了承を取っているので、最近では一人でも薬草採取が出来ていたんだけど、猪が出たってことで誰かと一緒じゃないと駄目になり、誰かと一緒となるとフィルがあてがわれるようになり、そうして近所でのんびりと薬草採取じゃなくて、危ないところでハードに薬草採取っていうことになるわけで・・
「ああー!もう!なんでクルトは一緒に薬草採取に行ってくれなかったのかな!」
思わず文句が出てしまいましたとも。
その日はブレダ山の西側にある崖を行ったり来たりしたため、手の指先が痺れて使い物になりません。
「仕方ないだろう、男っていうのは美人が好きなんだからさ!」
美人が好きだから、私と一緒に薬草を採取しに行くよりも、デボラとエステルと一緒に狩をしに行くことを選ぶんだってか。前を歩くフィルが容赦ない一言に物凄く腹が立つ。
「それにお前、独り立ちしたら薬草で生計を立てるつもりなんだろう?崖の往復程度でグダグダ言っていたら薬草採取で食っていけるわけないだろうに!」
フィルがすっごく冷めた目で私を見ながら言い出した。
「結婚出来ないお前は独り立ちしたら山にこもって、薬草採取三昧の日々を送るんだろう?だったら、金になる薬草を採取し続けないと!」
「うるさいな〜!」
私、黒髪に紅目なので、明るい髪色が人気となるこの島では、選ばれることなんかない部類の人間なのは間違いないけども!
「もしかしたら、黒髪でも良いですよという奇特な船乗りと結婚をして、亭主元気で留守が良い、自由気ままな主婦になるかもしれないじゃない!自由気ままな主婦だったら、危険な場所まで薬草を摘みに行かなくても、近所で胃薬程度の薬草採取で小遣い稼ぎが出来るでしょう!そういう未来だってあるかもしれないでしょう!決めつけは良くないよ!決めつけは!人の好みなんて人それぞれなんだから!もしかしたら私だって結婚出来るかもしれないんだよ!」
私が大きな声で主張をすると、振り返ったフィルは大きなため息を吐き出して、そうして無言のまま歩き出す。
「こいつ・・」
夕暮れ時の鮮やかなピンク色に染まった空の下で、女の子に人気のフィルは悠然と前を歩いて行く。その背中を追いかけながら無性に腹が立ったけど、こんなことで怒ったところでどうしようもないことよね。
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