第3話  余計なおせっかい

 27の群島を従えるエレスヘデン王国は、神秘の力で島々を創り出したとされる女神リールを信奉しているし、本島にある中央神殿では女神様の御神体を祀っているということでも有名だったする。


 27の島全てに女神を祀る神殿が設けられているし、人口が多い島には神殿に併設する形で孤児院も建てられています。私がお世話になっているアルメロ孤児院では赤ちゃんから十四歳になる子供まで、三十八人の子供が生活をしているわけですが、自分たちの食い扶持を稼ぐのは結構大変なことでもあるのです。


 神殿や領主様から支援金みたいなものも貰うんだけど、子供が三十八人も居るわけだから正直に言ってそれだけじゃ足りないです。その足りない分を補うために、年長組はチーズやエールを作るのを手伝ったり、成人前の子供たちは森で狩りをして食糧を確保したり、余った分は街で売ったりするわけです。


 ちなみに、デボラとエステルの仲良し二人組は弓矢が得意なので、森に入ってウサギとか山雉とかを捕まえてきます。男の子なんかは運が良ければ鹿とか猪とかを捕まえて来る中で、私なんかはもっぱら薬草を摘んでお茶を濁している感じです。


「アン!アン!」

 廊下を走って追いかけて来たクルトが、肩で息をしながら言い出した。

「最近、猪が出るみたいだから、アンが薬草を採取するなら俺が付き添うことにするよ」

「え!いいの?」


 クルトは大型の獣を狩猟する際には要となるメンバーなので、私の薬草採取につき合わせるのは申し訳ないとは思うんだけど・・


「もうすぐ俺も成人だし、俺がここを出た後に下の子たちで狩りが出来なくなるなんてことになっても困るから、そろそろ俺がいなくても出来るようにしないといけないと思っていたところなんだよ」


 森に入って狩猟をするのは十二歳から十四歳の男の子のグループなので、確かに、クルトが居なくなった後でも問題なく狩猟するために今から練習をする必要はあるかも。

「準備できたら外で待っているから!」

 クルトはそう言って走り出したんだけど、就職が決まっている男は人をフォローする余裕すらあるんだなって思うよね。


 基本的にボッチが多い私は一人で薬草採取をしていることが多いんだけど、今日は護衛役としてクルトが一緒に来てくれるから多めに採取が出来るかもしれない。最近は急に寒くなってきたため、風邪をひく人が増えている。解熱剤や咳止めの材料になる薬草はいくらでもあっても良いと言えるだろう。


 人が良いクルトを待たせたら申し訳ないと思った私は、慌てて準びを整えたわけだけれど、

「あれ・・なんでフィルが居るの?」

 外套をすっぽりと頭からかぶって外に出ると、肩には矢筒と弓を引っ掛けて、腰には大振りの鉈をぶら下げたフィルが振り返る。


「薬草を採取するのに最近猪が近くに出没して危ないからアンに付き添ってくれってコリーさんに頼まれたんだよ」

「ええーっと、クルトが付き添ってくれるって言っていたんだけど」

「クルトはデボラとエステルと一緒に狩りに行ったけど?」

「はい?」

「クルトも自分の結婚相手は美人が良いってことなんじゃない?」

「はあい?」


 年頃となった子どもたちは結婚相手を探し始める子が多いし、それは女の子だけでなく男の子も同様で、安定した職が決まった子ほど早く世帯を持ちたいと考える。


「最初は薬草採取付き合ってあげるよ〜と言いながらも、フィルがコリーさんに頼まれたと聞けば、そりゃ、フィルに私のことは丸投げして、美人のデボラやエステルの方に行っちゃうか」

「そうなんだろうな」

「でもさ、デボラとエステルはフィルのことが好きなんだから、クルトが私と薬草摘みに行って、フィルがデボラとエステルと一緒に狩りに行ったほうが良いような気もするんだけど」

「俺、まだ就職決まってないから」

「はい?」

「クルトはアッセル商会に就職が決まっているけど、俺、何処も決まっていないから」


 フィルはクルトのように筋肉ムキムキではないけれど、無駄な筋肉は一切付いていませんというスラリとした体型の持ち主で、腰にぶら下げているのはただの鉈だけど、剣士のような風格を持っている人なのです。


「えーっと、護衛としてすぐにでも働けるようにも見受けられるのですが?」

「いや、俺、誰かに仕えるとか本当に無理だし」

「それじゃあ、狩人として独り立ちデビューとか」

「まあ、それもアリっちゃアリだとは思うけど」

「だったら、狩人としてデボラとエステルと一緒に森に入ったら?」

「何?お前、修道女さんたちの思いを無碍にしようとしているわけ?」

「はい?」


 フィルは大きなため息を吐き出しながら言い出した。

「結婚に苦労して来た修道女様たちは、子どもたちに安全安心の結婚生活を送って欲しいと思っているわけ。だとしたら、無職の俺よりもクルトの方が有望株だと言えるだろう?」

「無職じゃなくて一人で狩人でしょう?」


「一人で狩人でも何でも良いけれど、結婚するのならきちんとした職場で働く人間の方が良いのに決まっている。そんな有望株の男子に、孤児院でも有望株の女子を当てこむのは当たり前の話なんじゃない?」


「なっ・・なるほど!私は完全に戦力外通告を受けているので、クルトと一緒に行動をする価値がないってことか。だけど、なんでフィルが私と一緒について来ることになるのかな〜?」


「薬草採取の最中にお前が猪に襲われたらコリーさんの寝覚めが悪いからじゃない?」

「コリーさん!なんて良い人!」

 この孤児院でコリーさんほど私のことを考えてくれる人はいないだろう。コリーさん!存在が尊すぎるよ!


「だけど、私は一人でも大丈夫だから、フィルはクルトと一緒に男女四人で森に入って狩りしてきたら?そっちの方が楽しいと思うよ?」

「うっざ!」

 フィルはゴミムシでも見るような眼差しで私を見ると、ペッと唾を吐き捨てる。

「男とか女とか、恋愛とか、ラブとか、余計なお世話だっていうんだよ。お前、マジでうざいわ」

「マジでうざいと言われましても・・」


 フィルと一緒に居ることで、デボラとエステルのヘイト値が鰻登りに上昇していくっていうのに、そんなことには全く頓着しない我が道を行く目の前のは、

「ウザ女、早く森に入れ、さっさと薬草を採取しろ、早く!早く!」

 と、プレッシャーをかけ始めた。


 アルメロ孤児院で一番の人気を誇るフィルだけれど、私、正直に言って彼のことが嫌いです。

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