第4話

「運命かぁ…」

アラサー女子にはあまりにも縁のないことかもしれないが

(運命の出会いがあるなら、ロマンチックだよねぇ)

コンコン

隣りの席の二つ年上の女性が机の仕切りパネルをノックした。名前は木村さん

「どうしたの?心の声がれてるよ」

「あーー漏れてました?」

「運命の出会いが何とか」

「え?そっちが漏れてたんですか…はずい」

三十路みそじには縁のない出会いだね」

ギーッ

木村さんが椅子を後ろに引いて眼鏡めがねを外す。そろそろ昼休憩時間だ。

「近くのカフェ行かない?」

木村さんがランチ誘ってくれるの珍しい。

「いいですね、行きますか?」

 田舎のカフェは車で行く距離、木村さんの軽四駆助手席に乗り込む

「誘っておいて散らかってるけど、ごめん」

後ろの荷室にシュラフやら折り畳みテーブルやらのキャンプ用品がぎっしり詰め込まれている。

「キャンプするんですか?」

「そうなの、週末ソロキャンプね」

 五分ほど車を走らせると、小さなログハウスのカフェに着いた。

店内に入ると、テーブル席とカウンター席のアメリカンカントリー風にまとめられていて、壁にはパッチワークキルトが飾られていた。

「いらっしゃいませ二名様ですか?」

「カウンター席で」

テーブル席の四人掛けを避けて、カウンター席へ座る。

窓から見える景色は田んぼと畑しかないが、見慣れた景色に落ち着く。

「ご注文はお決まりですか?」

カウンター越しにマスターが注文を取ってくれる。

「私はいつものオムライスで。小川さんは?」

「あ…同じので」

 注文を取ると優しくほほえむマスターがキッチンへ移動した。

木村さんは、いつも1人で来ているのだろう。(気を使ってくれたのかな?)

「さあて、さっきの話。運命の出会いがどうしたって?」

「あはは、木村さんには噓は通じませんね。運命と言うか、逢えたらいいなって思った人に偶然に会えたんです。しかも神社で」

「ふむふむ、一度だけ?」

「まだ一度だけですが、なぜか縁を感じていて…いままでそんな縁を感じる人に会ったことがないんです。どう思います?」

茶化さず真剣に聞いてくれるところが、木村さんのいいところだ。

「ふむ、簡単にてみようか?」

「いいんですか?お願いします」

 木村さんはネットの世界で占い師をやっているのだ。良く当たると評判がいいらしく、社内でも無償で視てもらう人が多い。

「お相手の情報は?分かる範囲でざっくりでいいよ」

「すいません。ほとんど知らないんです」

「そうなの?まぁ…いいか情報は」

そう言うと分厚い手帳を取り出しペラペラめくる。

「両手出して、手のひら。そう、上向けてね。じゃあ行きますう…リラックスね」

手相?いや違うか。木村さんに両手の中指と薬指を軽く握られた。

 数秒後、木村さんは手帳に何か書き込んでいる。

今度は手のひらに指で文字?を書く、めちゃくちゃくすぐったいよ。

「何か分かりました?」

「うん、でも聞いたら不安になるかな。相性は、めっちゃ良いよ。お相手のほうが溺愛するってさ」

「溺愛?」



 その日の夜、山田にビデオ通話で報告する。

「ぎゃはははh…溺愛?あの須佐さんが?マジで?」

「そんなに笑うことないじゃん!私だってイメージできないんだからぁ」

「空飛ぶ溺愛おとこ須佐マコト…あはははh」

「笑うな失礼だろ!やまだあ‼」

画面越しに腹を抱えて笑い転げる山田の姿があった。

ポコン LINEの通知が表示される

「山田ごめん、須佐さんからLINEきた」

「はいはい、お邪魔ジョはフエードアウトします~」

須佐さんからのメールを開く。

「次の日曜日、空いてる?」

さっそくデートのお誘いのようだ。

「あいてます」

「何処か行きたい場所ある?」

「今はまだ…オススメありますか?」

「決めていい?」

「はい」

「じゃぁ、9時に迎えに行くよ」

「お待ちしてます」

短いメールのやり取りに(ホントに溺愛?)と思ってしまう。



日曜日 晴天

(デートなんて何年ぶりだろ)どこに行くのか聞いてないから、とにかく動きやすい服装に着替えた。

ポコン 須佐さんからのメールだ

「着いたよ」

慌てて玄関を出ると、四駆のランドクルーザーが目に飛び込んできた。

「すごいっ…」

それしか言葉が出ない。

 助手席側の窓がウイーンと下がり、サングラスをかけた須佐さんが見えた。

「乗って」

路肩にめているから通行の邪魔にならないように素早く乗り込むと、車を滑るように発進させた。

 さすがパイロット、車の運転も滑らかだ。感心してると須佐さんはサングラスを外して、ダッシュボードの上に置く。

「行き先、言ってたっけ?」

「いいえ、どうして?」

「動きやすそうな服装だから」

「アクティブなほうがいいのかなって思ったんです」

須佐さんは右手を額に当てて、嬉しそうな顔をする。

「まいったな、ここまで息の合う子とは…最っ高に嬉しいじゃないか」

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