第3話
タクシーに揺られながら、バイクの話や神社の話をして、共通の趣味があることが分かった。
「そういえば、姫子ちゃんだっけ?名前しか聞いてないんだけど」
「??小川です、おがわひめこ…あなたは」
「須佐
「スサノミコト?」
ドクン
突然頭の中に、古い
「違うよ、スサ マコト」
ワイルドさんの声が聞こえた途端に、ふっと頭の中の映像は消えた。
酔いが冷めて、すっきりしている。何だったのだろう?今のは…
「スサ マコトさん?」
「そうだよ、よろしくね姫子ちゃん」
「アラサー女子にちゃんづけは…」
「いいんじゃないか?シマエナガちゃんより」
「!!」からかわれた?
タクシーが自宅アパートの前で止まり、降りようとドアに手をかけた。
「姫子ちゃん、īD交換しない?困った時は連絡してよ」
カバンの持ち手をつかまれる。
「いいですけど、あまり困ることないですよ?」
「それは、口実。何もなくてもメールして」
優し気に微笑んだ顔が悪い人には見えず、ラインのiDを互いに登録した。
「じゃあ…ありがとうございます、ごちそうさまでした」
「いいえ、こちらこそ。おやすみ」
タクシーを見送ってから、部屋に入った。
ポコン
通知が来る
『また会えて嬉しかったよ』
須佐さんからだった。
アイコン画像がハーレーとヘルメットだ。
なんて返信しようか考えてるうちに寝落ちしてしまった。
朝だ。既読スルーをしてしまった……(どうしよう~~)寝ぼけた頭で幾ら考えても、いい案は思いつかない。気を取り直してとりあえずシャワーを浴びよう。
ポコン
ポコン
ポコン
スッキリさっぱりして浴室を出ると、通知が立て続けに来ていた。
慌てて画面を開くと、山田からだった。
「おはよう!夕べはお持ち帰りされた?」
「マコトさんいい人でしょ?」
「返事がない、しかばねのようだ。お邪魔かなぁ?」
なるほどね、マッチングだったわけだ。返事を送る。
「おはよう、夕べは送ってもらっただけよ。īⅮは交換したけど」
「なんと!ホントに紳士だわ」
既読スルーしてしまったことを相談するついでに、須佐さんの職業など簡単な個人情報を聞いてみる。
「あれ?聞いてないの?」
「趣味とかは聞いてるけど」
「マコトさん、空自のパイロットだよ。
「百里のパイロット?」
♢
本日も晴天なり。
週末になると神社巡りが欠かせなくなってきた。流行に乗るというより、神社境内の空気が好きなのだ。
山の中の階段を息を切らしながら登ったり、田んぼに囲まれた砂利道を歩いたり。ビルに挟まれた場所や学校の隣に建てられた神社は、その地域の人達にどれだけ愛されてきたかを感じることができる。
小貝川沿いの
ここも桜の季節は綺麗だろうなぁ、などと妄想しながら車を砂利の駐車場に停める。
桜並木の参道を歩いていくと、バイクの近づく音が聞こえてきた。
小貝川に掛かる福雷橋を渡ってくるようだ。
(また須佐さんに偶然逢えたら面白いだろうな)
一の鳥居の手前にそのバイクが止まった。
(ハーレーだ、まさかね)
ハーレーに乗ってる人は多い、しかも土曜日なのだから参拝者がいてもおかしくない。
参道を振り返り二の鳥居をくぐって本殿に向かう。
狛犬さんの所で、突然名前を呼ばれた。
「姫子ちゃん?」
驚いて振り向くと、見覚えのあるライダースジャケットを着た須佐さんが目の前にいる。
「須佐さん?」
「また会えるなんて思ってなかったよ、偶然?」
二人並んで神様に御挨拶する。
御朱印帳を社務所に預けて、境内を一緒に散策すると楽し気な鳥のさえずりが聞こえてくる。
「あの…メールの返信しなくてすみません。あれから直ぐに寝ちゃって…」
「気にしなくていいよ、大した内容じゃないし」
穏やかに笑う須佐さんは、大人で紳士的だ。
「私ね、ここに着いた時にまた須佐さんと偶然会えたらいいなって思ってたの。まさかホントに会えると思わなくてビックリしちゃった」
「そうなんだ?俺は何故か呼ばれたような、行かなきゃいけないような気がしたからで。俺のほうこそビックリだよ」
「「運命かな?」」声が重なった。
「姫子ちゃん、今度行ったことない神社があれば一緒に行こうよ。迎えに行くから」
「え…行きたいけどバイクは…」
「タンデムしないんだよね?車で行くから大丈夫」
「もしかしてデートのお誘い?」
「当たり、今日は会えたことを神様に感謝してこのまま帰るよ」
「そうですね、私も神様に感謝します。願いをかなえてくれたので」
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