前途は多難、今こそ剣を掲げよ

 三時間後


 いつも技師が出てくるという所で三人が座って待っている。そのアニールの隣には、斬り刻まれた、出目の魔獣。


「鋭利な牙に、周囲の色に溶ける技……厄介ですね」


 とアニールがぼやく。木に模様が融けた魔獣を見つけ出すのは気の張る作業だったのだ。


「そうです。……一回で見破れるとは思いませんでした」

「さすがに違和感が……あれ、向こうから何か来るようですよ」


 と、灰の水の森の方から、何か気配が現れてきた。ややして、弓と狩刀を持った男がランタンのようなものを手に下げながら歩いてきた。


「おい、アルメジア……ついにここがバレたのか。」


 男の顔がサアッと青くなって、狩刀でアニールとイヴイレスを指した。


「俺らは野盗ではないが」


 野盗に因縁のあるキーラが怒気混じりに呟いた。アルメジアはお互いの視線を遮る線上に躍り出て、アニールたちを庇うように手を広げる。


「いいえ、この人たちは野盗ではないの。むしろ、恩人よ」

「は?」


 アルメジアが男の方に歩みより、ひそひそ話をすると男は了解した顔でアニール達に歩み寄る。アニール達が男に近づいてみると、男の掌はまめだらけでひどく荒れているのが見て取れた。

 イヴイレスは、イーズゲニア島に行く船が欲しいとの旨を話した。


「そうか……、とりあえずここで話そう。あと、その魔物くれ」


 男はだいぶ落ち着いた様子になって、イヴイレスの話に納得したらしい。


「だが、やはり今の状態で船を出すわけにはいかない。利用されたくないしな」

「……そうですか。」


 駄目だな、とイヴイレスは思った。しかし


「だが……、ドッグにまだトゥルク船が残ってたな」

「どういうことですか?」


 とイヴイレスが首を傾げた。


「トゥルク船は“別の地方扶洋の”船だ。つまり」

「ああ、あの船ならティール町の、とは思わないかもね」


 とアルメジアが相槌をついた。男の話によるとトゥルク船は灰の森よりも奥の村が川を渡るために開発したものなので、怪しまれにくいようだ。


「では、船を使わせていただくことはできる、と。」

「だが、一つ問題点がある。この森の川はティール港町にも流れている。繋がっているんだ。だから、どっちにしろ見られたくない。……町から野盗が去らない限りは無理だ。」


 と断った。

 その話を聞いて、アニールは自らの剣を抜き、その切先を見つめる。周囲が不思議そうにする中、まるで禅のような雰囲気を出しているアニールはやがて剣を日光に翳す。


「ーーーでは、我々が撃退するとしようか」


 アニールの言葉にその場の一同が驚く。だがイヴイレスはすぐに平静を取り戻し、改めて頭の中で勘定を始める。


「……可能そうだな。よし、帰って検討してみることにしよう」


 とイヴイレスが頷いて、


「ああ、まだ名前を聞いていなかった。私はイヴイレスです。」


 と男に向き直る。


「私はアニール。アニール・トカレスカ」

「そうか。俺は、ラバルダだ。よろしく。……アルメジア、無事に帰れそうか」

「ええ。じゃ、またね、ラバルダ」




 馬車にて


「いい加減町の人が怪しむから帰るわ。」


 とアルメジアが言い、一人で帰っていった。デボは、傷がだいぶ癒えてきたようだがまだ安静にしていなければならない。一応、野盗に対してデボは死んだ、との説明をするらしい。


「これでもう帰れないな、デボ。」


 とエルベンがデボに対してしゃんがんでニヤリとしながら言った。ウインダムズが通訳した。


「実は、お前らについていこうかと思っていた。だそうで…ええっ!?」


 ウインダムズ、自分でデボの通訳をしといて驚く。


「……えーと、さっきアルメジアさんとも話して自分が町に戻ったらきまりが悪いだろうしそもそももう野盗業はやりたくないからこうしよう、となったのだ。……らしいです。」


 背後でキーラが、はー、とため息を吐いたのをアニールは感じた。


「……もし許可をもらえれば一緒についていきたい。いいか。だそうです。」

「いいよ、私は。」


 とアニールが言い、全員が賛成の意を表した。但し、キーラの眉間の皺が緩むことはなかった。


「ただし。」


 と、イヴイレスが言い放った。


「まだ仲間と判断するには早い。条件がある。」


 と言い切った。


「それは、これからイーズゲニア島へと行く条件にもなるが。」

「もしかして、あの話を。」


 とアニールがイヴイレスに振り向いた。


「ああ。……灰の水の森から船を出してくれることになった。しかし、それには町の野盗を一掃する必要がある。なんせ町が川とも接しているからな。」


 と皆の顔を見回しながら言った。


「どうだろう。……賛成か?反対か?」


 一行全員が、


「やっちゃお。」

「やろーぜ、イヴイレス。」

「僕、頑張ります。」

「私、頑張りますぅ~。」

「言うまでもない。」


 と、賛成の意を表した。イヴイレスはデボの前に立った。


「……私たちはこれからティール港町の野盗を一掃してくるつもりだ。貴方もこれに参加して、相応の結果をあげるということが仲間入りの条件だ。」


 振り返って、


「アニール、いいな?」


 と、念を押した声で言った。その瞳は、これから作る騎士団の法を司るべき厳しさに満ちている。


「……そうだね、それくらいは……必要だな」


 と頷いた。


「ウインダムズ、聞いたなら翻訳してくれ」


とイヴイレスが指図する。


「はい。……。」


 しばらくして、


「はい、了承した、だそうです。」

「よし、決行は明後日になるな。明日またアルメジアさんが来る、どうやら野盗にも町の人がいるらしいから、彼らには反旗を翻してもらおう。」


 こうして、騎士団の歴史における初の野盗一掃作戦が始まるのだった。

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