光の民、降臨
イヴイレスとアルトとエルベンが下車して馬車の三方を取り囲うように歩き、馬車もそのペースに合わせて進む。レイザは彼女の馬、レイテル号に乗っているが、馬車に合わせたスピードだ。
「ここから先は、戦争で森が焼かれたりしてて今は多分平野となっているところが多い。」
そのアルトの言葉通り、草原の中に木々が寄り集まって点在している景色が広がっている。
「ただ、まだ隠れれる森とか多いな……。」
とエルベンが呟いた。結局、その日は何も起こらなかった。
事件が起きたのは、次の日だった。
アニールら一行は森を背にしながら草原の中に、柵に囲まれた村を見つけたのだ。
「あそこで補給しますかね。」
とウインダムズが言ったが、皆その言葉に反応しなかった。ただ一人、馬を手繰るアニールだけがウインダムズに瞳を向けた。
「いや、近寄らない。」
と、一言。
「どうしてですか。」
「鼠衆会のアジトかも。」
それ以降、アニールは何も言わなかった。その姿からウインダムズはさとった。
みんな、気を抜けれないんだ。
「よし、南の方にいこう。」
とアルトが言った。が、既に遅かった。村らしき所から誰かたちが大群でやってくる。その内数人は馬に乗ってきている。アニールは馬を止めた。
「全員下車。……ユーアちゃん、済まないけど戦ってくれる。」
と、アニールが色の無い目でユーアに振り向いた。
「ええ。覚悟は……してました。」
その言葉を境に、ウインダムズとユーア、アニールは下車した。その時、金具の外れる音がしたのをウインダムズは聞いた。外に出てみると、レイザも馬から降りたようだ。
「やあやあ、こんにちはみなさま。」
と村から出てきた大群の中の、馬に乗った恰幅の良い男が挨拶してきた。対するアニールら一行は無表情を崩さない。
「みなさん、昨日の天気はどうでしたかな。」
エルベンやアニールなど、勘のいい者はこの言葉に、頭裏にひりっと感じるものがあった。
……合言葉か。
「全員、抜刀。」
とアニールが言い、全員が戦闘態勢をとった。
「……やれやれ、仲間じゃなかったか。しかも、勘が良い」
「一応聞く。お前たちは何だ?」
「ひっひっひっ、天下に名の轟く悪しき略奪者、鼠衆会ですよお! 赤いバンダナが目印です! 地獄で名を広めてくださいよお!」
途端に、村から出てきた衆―間違いなく野盗の類―も武器を抜いた。三十五人はいる。
野盗らが武器を抜いた瞬間、三人の野盗がぶっ飛んだ。そのあとに、骨の砕けるような音が響いた。その場にいた全員が身構え、その原因に目を向けた。レイザがクレイモアで一薙ぎしたのだ。
これほどの力、とは……。
とアニールがため息をついた。つき終えたと同時に、
「ゴー!」
と叫んで駆け出す。ウインダムズは後ろを黒い大きな塊が動くのを感じて、そういうことか、と納得した。つまり、馬だけを逃がしたのだ。ユーアは魔法、イヴイレスは後ろから魔法と弓で後ろから援護する。野盗らが壁になって駆けてくる。
動きが読める……。
野盗らはそれぞれ短剣を持っている。リーチの問題で、アニールに真っ先に攻撃できるのはアニールの目の前の野盗だ。その次が両隣の野郎。その次はない。アニールは前傾姿勢をとって、短剣のリーチの外から剣を突き、抜くと対面したまま一歩後進しながら横に剣を薙いで両隣の野盗を処理した。と、矢が飛んできたのに気付いて避ける。避けた隙を利用して野盗が襲い掛かってきたのを読んでいたアニールはわざとそれに乗って、しかしギリギリ短剣のリーチの外に体を逃して今度は上から下へ斬った。
「うがっ……!」
向こうは群れでの動きが上手いとはいえ、一人ひとりの熟練の差が上回った。既に野盗らは十五人ほどに数を減らしていた。レイザがトドメにクレイモアを薙ごうとした、その時だった。
「うっ!」
突然、レイザの足が何か鎖のようなものに囚われるように動かなくなった。剣を持つ腕も、動きがにぶくなっている。
「これは、捕縛の魔法か!」
とレイザが叫んだ。よく見ると、レイザの影に一直線に伸びた影がつながっている。影の主はないにもかかわらず。まだ残っている野盗の影が壁の向こうから伸びてきているのが確認できた。
「なら俺が!」
とエルベンが一歩踏みだそうとしたとき、後ろで森がざわめくのを感じた。それから、何かが飛んでくるのを察知してルツェルンハンマーをすぐさま空に薙いだ。何かが剣に当たる音がして、矢だ、と気づいた。
「イヴイレス、来い!」
とエルベンが叫んで、イヴイレスは弓を捨てて剣を抜き、背中合わせになった。アルトとアニール、ウインダムス、ユーアはレイザを守るように囲った。
しまった、挟み撃ちにされた。
そう、アニールたちは誰もがそう思った。
「はははっ!騒ぎを聞きつけてくれましたね~。」
と先ほどの恰幅の良い男が笑った。
「昨日の天気は~。」
と恰幅の良い男が問うと、森から現れた野盗らは
「濡れ鼠になるような雨だったな。」
と答えた。
「YES!」
絶望的だ、とアニールらが思った。背後も気にしなければならなくなる状況だと、動きが制限される。踏み込んだ動きは、背後への隙が出来やすいため出来にくくなる。
そこからは地獄だった。たった一秒が長く感じられる。みんな、体に浅い切り傷を重ねていった。懸命に、今あるわが命をつなげる為だけに剣を、槍を振るった。魔法で熱線を飛ばし、氷の陣を張った。
「すまない……。」
レイザが弱弱しい声で言った。誰も聞こえていない。いや、聞いていない。
「すまない、私がふがいないばかりに……。」
誰にも届かない。
「……この力、見せたくなかったがしょうがない。」
魔法の力で強制的に屈ませられたレイザが、右ひざに右手をつけて、力を入れて立とうとする。途端、レイザの灰色の髪が舞った。変化に気づいたのは、まだ数人か。アニールらはまだ気づかない。
と、髪に色が通った。ある髪の先端からは赤が、その他からは青、そのまた他は緑……と、ランダムに色が現れた。と、一気に頭皮までそれらの色が通った。アニール、ユーア、ウインダムスはこの時点で背中に悪寒を感じた。髪全てに色が通った時点からランダムに色が入れ替わっていく。青から赤へ。緑から紫へ。桃から金へ。それは、もはや虹色だ。色の変化は留まることを、知らない。レイザは完全に二本の足で立った。それから、腹に力をいれた。空間がゆらいだような感覚をその場の全員が感じ、動きを停めた。
なんてこと、魔力がひしひし伝わってくる…!
とユーアが感じた。エルベンも、アルトも、野盗らでさえ、只ならぬものを見るような目つきでレイザを見る。
そうだ、これはー。
アニールは師匠の話を思い出す。
よのなかにはな、おれらとはちがうじんしゅもいるんだよ。
へえ、どんな。
そーだな。はだがくろいにんげんもいるし、まぞくという、ぜんしんくろくてみみがつきでたやつもいる。でも、かくべつなのはあれかな。
あれ、って。
ああ、まほうがとびきりつよいひとたちのことだよ。まほうをつかうとき、かみはにじいろのようになる。
すごい!そのひとたちって、なんていうの。
そうだな、たしかひかー。
「ひ、光の民かっ!」
と、恰幅の良い男が冷や汗をかきながら叫んだ。アニールも、その言葉には同意した。レイザが、
「ふんっ!」
と腹に力を入れると、レイザに伸びた影がパッと消えた。
「ーーーみんな、済まなかった、この力を隠していた」
レイザのクレイモアが野盗どもに向く。
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