第41話

文月菜々は退屈していた


「最近、夜子忙しいみたい」

そう言うと菜々は

暗い川面に小石を投げた


「僕はいつでも暇そうだもんね」

「あはっそういう意味じゃないけどさ」


あゆむと菜々は夜の川辺で

石段に座り虫の声に包まれていた


「なんかバイト始めたらしくて夜居ないみたい」

「うちバイト禁止じゃなかったっけ」

「そうだっけ?止めるべきだったかな?」


この頃から菜々は夜になると

時々、僕を呼び出すようになった


いつもはこの時間を

葉月夜子と過ごしてたのかもしれない


これは困った事になったなと思った


僕はあくまでも

菜々の遠くに居ると決めている


菜々の近くは他の人に任せて

僕は菜々と一定の距離をとっていたい


「他に友達居るでしょ」

「なんであゆむくんはいつもそうなの?」

菜々は不機嫌そうにして

僕の肩にもたれかかる


ふーっとため息をして

僕は菜々を抱き寄せる


「あゆむくんと結婚しようかな」

「嫌です」

「ちょっと!即答しないでよ」

断られてなぜか嬉しそうに笑う菜々に

僕は深いキスをした


菜々の潤んだ瞳に吸い込まれそうになる

「...いつもずるいなあ」

「僕はずるいよ」

「だから安心する」

「菜々は僕の1番大事な人だよ」


「...じゃあ抱いてよ」


僕の世界から

川の音と虫の声が消えた


「はいっ」

僕はぎゅっと菜々を抱きしめた


「もー!違うでしょー!」

菜々はけらけらと笑いながら

僕の胸に顔を埋めた


また川の音と虫の声が鳴り出した

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