第36話

佐々木は彼女と別れたと言ったが

それ以上は語らなかった


自分から別れたというのに

酷く落ち込んでいる


あんなに好きだった彼女と

自ら別れる理由はなんだ?


今は触れないで欲しい空気を察し

俺はそっとしておくことにした


葉月夜子


佐々木からの電話の違和感を

ふと思い出した


葉月が関係して...る訳はないか


「杉田ー呼んでるよー」


クラスメイトの声にピクンと反応して

教室の入口を振り返ると

別のクラスの友達が手招きしていた


まあ佐々木はそのうち話をするだろう

机に突っ伏してしまった佐々木を残し

俺は食堂に昼飯の調達へ向かった


いつものカレーを食べ

いつものバカ話をし

売店で食後のアイスを買おうとすると

葉月夜子とばったり会った


「アイス買うの?」

葉月は涼しげに聞いてくる

「葉月さんも食べるの?」

「え?奢ってくれるの?やったあ」


何も言ってないのに...


しかしいつもクールな葉月さんが

ピョンと飛んで喜びニコニコしている


意外な1面を見せられて

俺はニヤニヤしてしまい

気がついたらアイスを奢っていた


売店からほど近い中庭のベンチで

俺と葉月さんはアイスを食べた


「佐々木、今日元気ないみたいだね」

「ああ...うん」

確かにいつもニコニコしてる

佐々木の豹変ぶりは

誰から見ても心配になるよな...と思った


「何かあったの?」

「うーん...誰にも言わないでよ?」

「うん」

「彼女と別れたみたい」

「えーっそうなんだ、付き合い長くなかった?」

「2年ちょい?」

「それは凹むね」

「だよなー」

「杉田もやっぱ別れたら凹む?」

「...」


別れなんて考えた事も無かったし

別れる事は無いなと思い

言葉に詰まった


「別れる...は無いかな」

「ふーん杉田は凄いね」


葉月さんはどうなんだろう

新田先輩と別れてもうだいぶ経つけど

あれから彼氏はいるんだろうか


男友達は沢山いるようだが...


「葉月さんは?」

「ん?私?」

「そうそう、今はどうなの?」

「今はね...誰にも言わないでよ?」

と俺の耳に顔を近づけて

「好きな人がいる」

と耳元で囁きだした


俺は動揺して

ビクッと飛び跳ねて

アイスを落とした


葉月さんはけたけたと笑っていた


また相談に乗ってね

と葉月さんはスカートの裾を

ヒラヒラとはためかせ

去っていった


「C組の塩谷君」

と葉月夜子耳元で言っていた


「まあ俺な訳無いよな」


と呟くと空を見上げ

汗ばんだ額を拭い

赤くなっているであろう耳を

両手でパチパチ叩いて教室に戻った

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