第37話

卒業したら菜々と暮らそう


菜々は専門学校に通うから

近くに引っ越すのもアリだな


美術室の片隅のデスクで

向井は妄想にふけっていた


菜々は待ってくれているのだから

俺はその気持ちに応えてあげないと

卒業までに

できる限りの準備をしよう


ひとつ気になるのは

弟のあゆむだ


菜々を傷つけたら許さないから


あゆむと菜々は同じクラスだ

そして小中高同じになったようだ


あゆむは菜々に片思いしてるのか?


菜々を呼び捨てにする程

仲がいいのか?


まるで菜々の

正規のヒーローのような口ぶりだった


両親が離婚してから

あゆむが心細いだろうと思い

俺はあゆむと母の家に通いよく遊んであげていた


あゆむが小学生になる頃

俺は大学生になり一人暮らしを始め

忙しくてそれきりになってしまった


それからのあゆむを知らないが

あゆむが俺の勤める高校に入ることになった事を

久しぶりの母からの電話で知らされた


入学式の時あゆむを見つけて

俺はこっそり泣いた


入学式の後

母とあゆむと久々に再会した


母と2人で心細い時もあっただろう

あの小さかった弟が

こんなに大きくなったのか


年の離れたあゆむは

無垢で危なっかしくて

可愛くて仕方なかった


様々な悩みの中に居た俺を

笑顔にしてくれた


そのあゆむが


菜々を傷つけたら許さない


と言った


あゆむにとって菜々は

大切な人である事は分かった…


ぼんやりとしたままコーヒーを1口飲むと

コンビニで買った物件情報誌を閉じた


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