第32話
「あゆむくんと会うの久しぶり」
文月菜々は公園のブランコを揺らしながら
微笑みを浮かべ夜空を見上げていた
「毎日学校で会ってるけどね」
僕は隣でブランコに静かに座っていた
「学校じゃ話さないし」
「目立つのは嫌だからね、菜々目立つし」
「そうかなー」
菜々はうーんと少しふてくされて
ブランコから降りると
僕の前に立ちはだかる
僕はやれやれと
慣れた手つきで
菜々の手を引き寄せて
膝の上に座らせて
後ろからぎゅっと抱きしめた
「お兄さんだったって知らなかった」
「うん」
「先に教えてよ」
「うん」
「あーあ好きになっちゃった」
「うん」
「どうしたらいいの?」
「...」
菜々は僕にもたれかかるように
ぎゅーっと体重をかけてくる
無言の抗議だ
後ろへずれ落ちそうになる僕は
慌てて菜々をなだめる
「好きなのはいいけど今はダメかな」
「今はダメ?」
「菜々は生徒だから」
「卒業してから?」
「そうだね」
「そっか」
「あゆむくんがそう言うならそうする」
フワッと膝が軽くなり
花のような香りだけが僕に残る
菜々はそのままバイバイも言わず帰った
僕の父と母は
僕がまだ幼い頃に離婚した
兄は父と、僕は母と暮らし始めた
その後も兄は時々
僕と遊びに母の家に来てくれていたけど
小学生になる頃
パタリと来なくなった
ちょうどその頃
近所に越してきた菜々と僕は
仲良くなって、色々あって今に至る
僕と菜々は小学生ながらに恋をしていた
中学に入り僕たちは
恋人という形ではなく
肩書きのない関係になった
幼なじみでも無い
恋人でも無い
兄妹のようなでも無い
名前の無い関係
お互いに好きだけど
恋愛とは違うような
不思議な気持ちだ
目立つのが嫌な僕は
嫌でも目立つ菜々と
学校では無関係を貫き通した
小中高と同じなのに
僕たちは誰から見ても他人なのに
僕たちは誰よりも近かった
菜々には僕が必要で
僕にも菜々が必要だった
2人だけの秘密を12年
僕たちは守り続けていた
この先もずっと
静かに側に居続ける
僕は菜々の秘密の理解者だ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます