第26話

夜の公園の前に車を止めた


車から降りて自販機でコーヒーとココアを買う

夜はまだ少し肌寒い

車に戻り乗り込む


「はい」

ココアを受け取ると助手席の文月菜々は

おしるこが良かったと駄々をこね

俺は困ったように笑った


誰かに見つからないように気をつける

スパイのような気分を味わいながら


文月菜々ともう何度目か分からないデート


「向井先生のお家に行きたい」


ついに来たかと

向井はコーヒーを飲みながら遠くを見た


越えてはいけない一線は

荒れた海にそびえる断崖のようだ


「うち汚いからな」

「全然いい」

「何も無いよ」

「全然いい」

「ネズミとかいるかも」

「それはやだ」


ふっと笑うと向井は

ハンドルに手をかけて

車を走らせた


「私は先生がいいの」


消えそう声に

たまらなく胸がざわめいた

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