第25話

3年になりいよいよ俺たちの天下だ


廊下を歩けばペコペコと

挨拶をしてくる後輩達に

佐々木健太は

鼻をふくらませて威張っていた


小さな悩みは常にあるけど

全てが順調だ


杉田陽とも相変わらず仲が良く

きっと卒業してもこいつとは

ずっと友達として繋がっているだろう


平穏な日々の中

その声は悪魔の囁きに聞こえた


「佐々木は最近どう?」


放課後、俺は担任に頼まれて

明日配るプリントを纏めていた


葉月夜子と2人きりの作業室


「どうって何」

ヘラヘラと答えると

「彼女、上手くいってる?」


女子校に通う彼女とは

もう2年以上の付き合いだ

頻繁には会えないのは変わらずだが

電話や情熱は減っていた


「まあまあかな、相変わらずって感じ」


3年になるとさすがに

葉月夜子にも文月菜々にも慣れて

構えずに話せるくらいにはなった


何より、葉月夜子は

杉田を家に誘うくらいの近さのようだ


杉田の友達である俺が

妙に葉月夜子を意識しているのは

俺の謎のプライドが許さない


そういえば杉田から

家に誘われた話の

その後を聞いてないな

行ったのだろうか?

どうなったのだろうか?


急に悶々と妄想して黙ってしまった


「ねえ聞いてる?」


葉月夜子は悪戯っぽく笑うと

俺の持つプリントを指で挟んで

フリフリと揺らして邪魔をしてきた


「ああっ聞いてる聞いてるから!」


整えたプリントがズレて焦る

妄想を誤魔化すように

ヘラヘラと笑って

ドキドキする自分を抑えた


杉田と遊んだの?

はストレート過ぎるか


葉月さんはよく家に男友達呼ぶの?

はデリカシーが無いか


またニヤニヤしながらも黙る佐々木健太を

じーっと見つめていた葉月夜子は囁いた


「今日、暇なら家来ない?」


俺は妄想の全てが

見透かされてるような感覚になり

心臓が飛び出るかと思った


驚いた顔で葉月夜子をチラっと見ると

涼しげに誘うような目で俺をじっと見ている


小悪魔のような笑顔に俺は一瞬で堕ちた


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