第15話

文月菜々に彼氏が出来た事が知れわたったのは

菜々が腕と足に包帯を巻き

眼帯をして登校をした日だった


「菜々ちゃんどうしたの?!」


クラス中の女子が駆け寄り

男子は遠巻きにザワザワしていた


菜々には数ヶ月前から年上の彼氏が出来ていた


優しくて笑顔の可愛い

子犬のように人懐っこい

みんなに好かれる

まるで菜々のような人だ


「彼氏の車に乗ってて事故っちゃってねー」


「彼氏!?」「車?!」「事故!?」

「ええっ?!」

教室がまるで記者会見場になった


放課後は部活に汗を流し

努力、友情、涙と笑顔、の世界の住人達は

聞きなれないキーワードに大興奮だ


その日からしばらくは菜々の隣で

「彼氏の車で事故った」

という説明を何度も聞く事になった


菜々の包帯が取れる頃には

いつもの日常に戻り

年上の彼氏が居る菜々、となったが

相変わらずモテている


彼氏が居てもこの世界で1番なのは

変わらないようだ


菜々の世界でも

菜々の彼氏の世界でも

菜々は1番だ


「夜子ーまた明日ねー!」


迎えに来た彼氏の車に乗り込み

屈託の無い笑顔で手を振る菜々を見送る


そんな菜々を運転席で見守る彼氏さんは

菜々とそっくりな人懐っこい笑顔で

「夜子ちゃんまたね!」

と幸せそうにペコッと首を傾げ

排気ガスの匂いを残して去っていった


愛し愛される

求めて求められる

単純なことなのに


私が1番の世界はまだ見つからない

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