第6話
「佐々木君って柔道部だよね?」
健太はその声の方になかなか振り返れず
黒板を見つめたまま
大きな体をゆっくり真っ直ぐと伸ばす
「違ったっけ?」
健太はゆっくりと振り返り
チラリと見て
「あ、おう」と小さく言うと
目を逸らしデレデレの笑顔になった
文月菜々の花のような髪の香りが
これでもかと健太の周囲を包み込む
「今日って部活あるのかな?」
「いや、今日は試験休み」
「そっかー」
「何?何で?」
健太は堪えきれないデレデレ顔のまま
隣の杉田に目をやると
俺を見てニヤニヤしていた
健太はだらしなく緩んだ口を
慌てて閉じるも
デレデレした目は隠しきれなかった
「うーん...柔道部の先輩に用事があって...」
「もしかして先輩ってあの人?」
菜々はうーんと口をつぐむと
首を少し傾げて
「佐々木君...何か聞いてる?」
「...いやっなんとなく!先輩達が文月さんの事可愛いって話してたから…」
健太がその先輩の名前を出さないのは
迂闊に先輩を敵に回さない為の
男社会の小さな防御だろう
健太は誰にでも優しいが
気は小さいようだ
それを察した菜々は
「あははっうーん嬉しいけどね、うん...」
と困った顔で微笑む
「あー...断れなくて困ってる感...じ?」
健太は先輩が振られるであろう話を
陰で聞いてはマズイと思いながらも
菜々の子犬のような
守ってあげたくなる困り顔の前では
良い男を演じざるを得なかった
いやきっとどの男子でもそうなるに違いない
俺に罪は無い!と
健太はキリリと真剣な表情に切り替えた
「うん...凄くいい人そうだから傷つけたら申し訳なくて...」
「先輩すげーいい人だよ。...でも文月さん好きじゃないなら断らないとー...だね」
チラッと杉田を見ると
窓の外を見て気を利かせてくれているが
赤くなった耳だけこちらに集中してるようだ
なんだかんだ言って杉田も意識するよな
と、文月菜々に目線を戻す
「そうだよねー分かってるんだけどねーどうしよ...」
困った顔で笑いながら健太に甘える
可愛すぎるだろ!
健太は顔が熱くなるのを感じた
が
ふと女子校に通う
彼女の顔が頭をよぎって我に返る
「正直に言うしかない...かな?頑張って!何かあったら俺にまた話して」
理性を取り戻した健太はニコッと微笑んだ
空気を察した菜々は
「ありがとー頑張ってみるよ」
と最高の笑顔で微笑んだ
健太は堪らず目を逸らした
杉田の耳はまだ赤いままだった
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