第13話 両胸合わせて推定3キログラムオーバー

 玉橋さんと共に歩みを進めると開けた場所に出る。

 この広場のような場所のどこかにポータルがあると思われる。

 ポータルの姿形は場所によってマチマチだが、どれも必ず目立つ見た目をしているはず。

 広場の奥に目をやると黒い柱一本そびえ立っていた。

 ちょっとした意匠も施されていてまるでインドにある世界遺産「アショカピラー」みたいだ。

 ひときわ目立つあの柱がポータルなのだろう。


「さてと、ボスはどこかな?」


「なにもいないように見えますね」


 そんな事を玉橋さんと話してはいるが、ボスは絶対にいると思う。

 先ほどから殺気のようなモノをビンビン感じている。

 こういう感覚は小さい頃より姉からボコボコにされ……鍛えられていくなかで会得していた。


「気を付けて、どこかにいるはずだから」


「は、はい!」


 俺の言葉に玉橋さんは緊張を強める。

 彼女を守るように3歩ほど前にでつつゆっくりと広場の中心へと進む。

 そしてしばらくすると。


「――――ッ!?上かッ!」


 少し薄暗い洞窟型階層の天井から、何者かが降ってくる。

 もちろんただ落ちてきただけではない。

 暗がりからの強襲だ。

 俺は素早く横に飛ぶと、先程まで居た場所の地面が相手の得物によって抉れる音がした。

 

「コボルト……?でも、大きい」


 玉橋さんの言う通り、見た目はコボルトだ。

 だが通常のコボルトが成人男性の腰から腹程度の身長しかない。

 対してこいつの背丈は男の平均と変わらないくらいだ。

 俺よりは少し低いかな。

 そして四肢の筋肉の付き方も比較的にしっかりしている。

 特に脚の筋肉量には目を見張るものがある。

 

「コボルト・ハウンド……?」


 コボルトの上位種。

 この階層のエリアボスとしては定番中の定番だ。

 そして俺はこれまでに何度かソロで倒したことがある。

 のだが。

 ちょっと様子が変だ。

 

 コボルト・ハウンドが純近接戦闘タイプのモンスターだ。

 上からの奇襲、おそらく洞窟の天井にしがみついていたのだろうがそういう行動はとらないはず。

 それに何より、今目の前で。


「うっ、このコボルト、武器を舐めるんですか……?」


 玉橋さんが気持ち悪そうに言った。

 コボルト・ハウンドは、手に持ったやや短めの剣の刃に自身の長い舌を這わせていた。

 なんというか、イタい中学生なんかが家の包丁でやりそうな行動だ。

 剣の刃に唾液がねっとりと滴っていて気色が悪い。

 こんな事をするモンスターは。


「玉橋さん、気を付けて!コイツはコボルト・ハウンドじゃなくて……」


 俺が言いかけたところで、敵がこちらに飛びつくように向かってきた。

 物凄いスピード。

 敵の剣をメイスを横にして受け止めながら玉橋さんに言う。


「コボルト・アサシンだ!ちょっと手強いぞ!」


 ハウンドと同格ではあるが、特性的にもこちらの方が厄介だ。

 俺はメイスに力を込めて相手を一旦押し返す。


「さっきヤツは自分の武器を舐めてただろ?」


「は、はい。気持ち悪かったです」


 相手の攻撃を躱しつつ、玉橋さんと情報を共有しておく。


「アレが特徴なんだ。コボルト・アサシンは口内に毒腺があって、毒混じりの唾液を武器に塗布して攻撃してくるんだ!」


「な、なるほど!」

 

「だからかなり厄介なんだ。それに全体的にスピードも早い!」


「えっとそれじゃあ……」


「ああ、苦戦するかも!」


 俺も相手の隙を突いて攻撃しようとするが、空振って態勢を崩してしまう。

 敵はそれを逃すまいと毒に濡れた剣で突きを繰り出してきた。

 しかしそれは想定済みだ。

 態勢を崩したのはブラフ。

 俺はすぐさまメイスを振り上げてカウンターを狙う。

 

 だが相手の反応速度は思った以上だった。

 コボルト・アサシンはすぐに剣を横にして俺の攻撃をガードしようとした。

 そしてメイスがそこに直撃すると。


 剣はあっけなく遥か遠くへと吹き飛んでいった。

 俺もコボルトも馬鹿みたいに口をポカーンと開けている。


「……苦戦する?」


 玉橋さんが静かにツッコミを入れてきた。

 ……うん、どうやら『スケベ』スキルで強化された腕力は想像以上に圧倒的らしい。

 

 すぐさま気を取り直してメイスを振りかぶる。

 狙うはボケっと呆けてる敵の脳天。

 強烈な一撃をかましてやる!

 だが相手もそんなに甘くは無かったようだ。

 普通にバックステップで回避された。

 俺のメイスはそのまま地面へと振り下ろされ……。


 ――――ベキッ!!!


 「お、折れたぁ!?」


 柄の部分からグニャリとひしゃげていた。

 またか!


「だ、大丈夫ですか!?」


 後ろから玉橋さんの心配そうな声が飛んできた。


「大丈夫だよ」


 玉橋さんを安心させるように落ち着きを払いながら言う。

 そしてメイスを放り投げた。

 これじゃあ使い物にならん。


「多分この程度の敵なら……」


 そしてファイティングポーズをとる。

 少しやり合っただけだが、相手の実力は大体把握できた。

 

「素手で十分だよ」


 よく考えたら徘徊者も最後は素手でボコボコにしたしな。


 まずは軽い左ジャブを数回打ってからの右ストレート。

 しかし相手は俊敏型の上位コボルト。

 この程度はかすりもしない。


「ふむ、それなら……」


 俺は脚に力を込めて一気に距離を詰める。

 そして右手を振りかぶってテレフォンパンチの構え。

 わかりやすい予備動作に反応して、相手は顔付近をガードするように両腕をクロスした。

 俺はそれを見計らってガラ空きの下半身を狙ってローキックを繰り出す。

 それが相手の膝へとモロに当たる。

 クリーンヒットだ。


「ギャインッ!?」


 コボルトらしい犬のような悲鳴が聞こえた。

 俺は流れるように蹴りを放つが、それはバックステップで躱される。

 どうやら先程のキックは相手の脚を破壊するには至らなかったようだ。


 打撃に対する耐久力はそれなりにあるらしい。

 そして速度も俺と互角。


 こっちが上回っているのはパワーと体格か。

 それなら。

 

 距離をジリジリと詰めつつ相手の攻撃を誘う。


「ほらほらかかってこいよ犬っコロ。それとも尻尾巻いて逃げるのか?」

 

 俺の安い挑発を理解できたのかは知らないが、舐められているのは分かったのだろう。

 相手が少し前傾姿勢になり、脚に力が入った。

 飛びかかる前兆だ。


 その瞬間、俺は右膝の跳ね上げようとする。

 即ち膝蹴りの構え。


 それに反応して身を引くコボルト・アサシン。

 先程からそうだ。

 こちらの攻撃を察して回避なりガードなりをしようとする。

 目が良いんだろうな。

 だがその目の良さが仇となる。


 俺の膝蹴りに対処しようと身体を引いた相手は、完全に上半身が浮いていた。

 そこで狙うのはパンチや蹴りではなく。

 俺はすぐさま敵の腰元へタックル。


 上体の浮いた相手を地面に押し倒すのは容易い。

 地面に倒された相手の口から悲鳴のような鳴き声が漏れた。

 

 押し倒した俺はそのままマウントポジションに移行。

 そしてコボルト・アサシンの顔面を容赦なく殴打殴打殴打。

 

 ここからはずっとオレのターン。


 と、思ったところで右太ももに少し痛みが走った。

 相手の爪で引っかかれたのだ。

 思ったよりも鋭い爪先は、俺のジャージのズボンとその下の皮膚を切り裂いていた。

 少し出血もしているな。


 こちらが少し怯んだとみて相手は強く藻掻いて状況を打破しようと試み始める。

 俺も体重のかけ方が悪くなっていてコボルトに抜け出されそう。

 それなら……。

 

 俺はわざと相手に身体を起こす余裕を与える。

 そしてコボルトが上体を起こしたところで相手の左手を掴んでこちらに引き込む。

 そして脚で相手の片腕と首を挟み込んだ。

 俺の強化された脚の筋力で、敵の頸動脈を押し潰さんばかりに圧迫。

 

 三角絞めが完璧に決まった。


 どこでこういう戦い方覚えたのかって?

 もちろん姉である。

 姉は特にサブミッションが大好きだからね。

 「サブミッションは王者の技よ」とか言って何度も身体に直接教え込まれた。

 「お前も必ず覚えなさい」と命じられていくつも技を特訓させられたのは……幼少期の良き思い出である。

 いや、辛い思い出の方が多い気してきたぞ。

 ……まあとにかく、この三角絞めは姉に教え込まれた技のうちの1つだ。


 コボルト・アサシンは涎をダラダラと流しながら、俺の技から逃れようと必死。

 だが時間の問題だな。

 すぐにもがき方が弱くなり、そして動かなくなった。

 失神したのだ。


 俺は技を解くとすぐさま腰ナイフを取り出す。

 そして相手をうつ伏せにしてから喉を掻き切った。

 勢いよく血が流れ出す。

 これですぐに失血死するだろう。

 一応うつ伏せにしたから血が上に吹き出る事は無いが、汚れるのは嫌なので距離は取っておく。

 

「す、すごいです江口君!お見事です!」


 玉橋さんがパチパチ拍手をしながら褒めてくれる。


 「いやあそれほどでも」


 そう言いながらも俺の視線はもう既に玉橋さんを舐め回している。

 乳、尻、太もも、その他色々全身。

 そりゃあもうベロンベロンに眺め回していて、我ながらキモいと思う。

 いやでも仕方ないだろ。

 戦闘が終わったのだからこの後はご褒美タイム……。


「え、江口君!?」


 スッと身体から力が抜けていく。

 俺の名前を呼ぶ玉橋さんの声が妙に遠く感じる。


「なんだ、これ……?」


「江口君!しっかり!しっかりしてくださいっ!」

 

 疑問に思ったところで、自分の太ももの傷が目に入る。

 傷周りが、何かの液体で汚れていた。


 そうか、三角絞めのときの飛び散ったコボルト・アサシンの有毒な唾液が傷にかかったのか。


「しくじったよ、毒を食らったらしい……」


「そ、そんな……!」


 まずい、解毒剤的なものは持ってきてないし……。

 

 視界がゆらゆらぐるぐるとしだす。


 やべ、倒れそう……。

 

 どさりと地面へ後ろに倒れ込みかけたところで、後頭部になにやら柔らかい感触が。

 玉橋さんとの、距離も近い。

 どうやら膝枕されているようだ。


 美少女に膝枕してもらう。

 死ぬまでにやっておきたいこと100選の1つが叶ったな……。

 くだらない事を考えつつも、意識が遠のいていくのを感じる。

 頭痛と吐き気までしてきた。


「えぐちくんっ、えぐちくんっ!」

 

 玉橋さんは涙を流しているのだろうか?

 鼻声になりながら俺の名前を呼び続けていた。

 いや、そんなに泣かなくてもいいじゃん。

 ここ死に戻りアリの安全ダンジョンだし。

 すぐにダンジョンゲート前で会えるでしょ。


 といっても俺は死に戻りした事がないので、未知の体験だ。

 ……ちょっとビビっていたりする。

 

 この恐怖心を、薄めたい。

 そう、約束があったはずだ。


「た、玉橋さん……」


「は、はい、江口君っ!なんですか!?」


「戦闘後に、約束が……」

 

「え、や、約束?あっ、はい!アレですね!」


 そう言いながら自分の服を捲り上げる玉橋さん。

 膝枕されている俺の眼の前に曝け出されるでっかい果実。

 ブラジャーに包まれたそれは俺の視界を占領していて、玉橋さんの顔が見えていない。

 

「いい、かな……?」


「はい、どうぞ!好きなだけ、触ってください!」


 俺は弱々しく両手を伸ばす。

 ちょっと力が入らなくなってきているが、なんとか目的のモノにふれる事ができた。

 

 まずはサイズとカタチを確かめるように、ゆっくりと撫で回す。

 すっげぇこのお乳、手の中に収まりきらないぞ……。


「あ、あうっ……」


 玉橋さんの恥ずかしがる声が耳に心地よい。

 

 俺はたっぷり撫で回したあと、今度は重さを確かめるように下から持ち上げる。


 おっも!!

 これ、すっげえ重い!!!

 

 片胸だけでも余裕で1キログラム以上あるんじゃなかろうか。

 今俺は、この国宝級の乳を自由にできるんだよな……。


 ゴクリとツバを飲み込みながら、両胸に手を這わせてゆっくりと鷲掴みしていく。

 あまり力を込めすぎないように気をつける。

 玉橋さんを傷つける事など許されない。

 

 やわっけえ……!

 ブラに包まれてない上乳部分へと指先が沈み込んでいく。

 程よい張りと弾力。

 だがそれ以上の未知なる柔らかさ。

 これが、「おっぱい」ですか。


「あっ、ん……」


 玉橋さんから漏れる声がちょっとえっちだ。

 膝枕されている上体だと、恥ずかしがる顔が巨乳に隠れて見ることが出来ないが、これは仕方なし。

 今度、正面から揉ませてもらお。


「あ、あの、江口君……」


 玉橋さんが吐息混じりの声で俺の名を呼ぶ。


「そ、そろそろ……」


 あ、もうお終いかな。

 短い間だったが、非常に有意義で貴重な体験だった。


「ありがとう、玉橋さん」


 俺はそう言って、名残惜しくも玉橋さんの胸から手を離そうとする。

 離そうとしたところで、玉橋さんは俺の手を優しくつかんだ。


「そろそろ、直に、触りますか?」


「え、マジ!?」


 衝撃の提案に思わず上体を起こして食い気味に玉橋さんに確認を取る俺。


「は、はいっ。その、嫌でなければ是非……」


「嫌なわけないよ!!!」


 思わず声が大きくなる。


 な・ま・ち・ち!

 な・ま・ち・ち!


「え、江口君……?」


 そこで玉橋さんが不思議そうな声を上げる。

 あれ、興奮シすぎて引かれたかな。

 そんな事を思ったがどうやら違ったらしい。


「毒、大丈夫ですか?」


「……あれ?」


 さっきまでの衰弱状態が嘘のように、俺の身体はビンビン……もといピンピンしていた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る