第11話 こんな私でも、あなたの役に立てますか?

 中央ダンジョンには約束の時間の15分前に到着した。

 このダンジョンのゲートは大きな建物の中に存在している。

 

 入口を入るとまずは大きなエントランスホール。

 生徒たちの待ち合わせによく使われていて、いわばこのダンジョンにおけるハチ公前だ。

 今はまだ比較的早い時間という事もあって人は少なめ。

 

 辺りをキョロキョロと見渡すと、こちらに向かって手を振っている少女を見つけた。

 玉橋さんだ。

 俺も手を上げてから、早足で玉橋さんの元へと向かう。


「おはよう。待たせちゃったね」


「おはようございます。大丈夫です、私も今来たところですからっ」


 待ち合わせにおける定番のやり取りだが、ボッチな俺はこんな事でも感動してしまう。

 おお、これぞ青春って感じ。


「準備は大丈夫?」


「はい、ばっちりですっ」


 玉橋さんはリュックを背負っており、腰には小振りの剣。

 今すぐにでもダンジョンに入れそうだ。


「こほん。その、着替えも、しっかり持ってきました……!」


 玉橋さんは頬を赤く染めてハニカミながら小声で教えてくれた。

 なるほどね、準備万端のようだ。

 それはそうと。


 玉橋さんのを見ていると思い出してしまう。

 昨日のえっちな自撮り写真を。

 もちろん服を着ているが、あの素晴らしい身体が眼の前にあると思うとなんというか。

 まずいまずい、こんなところで『スケベ』が発動したら恥ずかしすぎる。

 玉橋さんにもバレるからな。

 

 そんな俺をよそに、玉橋さんが「あ、そうでした」と呟く。

 なんだなんだ。


「あの、えっと。……とりあえず、送りますね!」


「えっと、何を……?」


 玉橋さんはスマホを取り出し何やら操作している。

 しばらくすると俺のスマホが通知音を鳴らす。

 見てみると玉橋さんからメッセージが。

 眼の前に居るのになんだろう?


 頭にハテナマークを浮かべながらメッセージを見ると、なにやら画像ファイルが。

 それだけでちょっと昨日の出来事を思い出して色々としてしまう。

 そして画像を見てみると。


「ちょっ!?」


「えへへ……」


 玉橋さんが姿見鏡で撮ったと思わしき自撮り写真だった。

 今回は、服を着ている。

 今着ているものと同じジャージだ。

 しかしジャージのチャックは下ろされている。

 そしてその下に着ている体操着は上へとたくし上げられ、そしてズボンも下に大きくずらされている。

 写真にはばっちりと水色のブラとパンツがばっちりと写っていた。

 「今日の下着はこんな感じです」との一文も添えられている。


「……どうですか?男の人ってこういうのが好きなんですよね?」


 玉橋さんは顔を赤くしながらも、首をコテンと横に傾けて俺の様子を伺っている。

 ここはやはり、昨日と同じよう素直に答えるべきだろう。


「……大好きです」


「……!」


 玉橋さんは顔をさらに赤くさせるとモジモジしながらも、満開の笑顔で喜びの表情を浮かべていた。

 俺の言葉は正解だったようだ。


「そ、それじゃあ、ダンジョンに行きましょうか!スキルも発動していますし!」


「お、うん」


 玉橋さんに促されてダンジョンゲートへと歩き出す。

 

 それはともかくとして。

 この『スケベ』スキル、色々と筒抜けでめちゃくちゃ恥ずかしすぎるぞ……。





 ――――――――――





 さて、本日の目的であるダンジョン探索である。

 特別な事は何もなく、ただ歩き回ってモンスターを探して倒していくだけだ。

 ただ少し特殊なのは、メインで戦うのは俺だけどもトドメを刺すのは玉橋さんがするという事だ。

 

 なぜかというと話は単純。

 レベルを上げるためである。

 レベルといってもゲームのようなモノではなく、1つの目安みたいなもの。

 一定数倒すと急に強くなる、みたいな訳では無い。

 

 モンスターを1体倒していく事に少しずつ、身体能力や魔力なんかがチビチビと強化されていくのだ。

 1体倒した程度の強化度合いは微々たるモノで実感する事は中々出来ないが、沢山モンスターを倒していけばチリツモの如く強くなっていく。

 大量のモンスターを狩ってきたベテラン冒険者なら、常人を遥かに超えた身体能力を誇ることになる。

 ビルの外壁を一直線に駆け上っていったり、数十メートルの高さから落ちても無傷だったり、車を素手で持ち上げたり等だ。


 こういう事実があるので、探索者は皆せっせとモンスターを倒していくのが常だ。

 これが俗にいう「レベル上げ」である。


「せいやッ!」


 コボルトの脚をメイスでへし折り動けなくした後で、さらに胴体へ一発攻撃をお見舞いする。

 肋骨が折れて肺に刺さったのだろうか、コボルトから掠れるような息遣いが聞こえる。

 こうなってはもう抵抗など出来ない。

 後は玉橋さんにお願いする。


「はいこれ、やっちゃって」


「は、はい!わかりましたっ」


 玉橋さんが恐る恐るといった様子で近づいていく。

 他にもう敵は居ないので、少しは時間をかけても大丈夫だ。

 なので彼女のペースに任せる。


 「えいっ!」という掛け声と共に玉橋さんがコボルトに剣を突き立てた。

 俺のアドバイスどおり、心臓を狙っている。

 さらに肋骨に剣が引っかからないように刃を横向きにして。

 ズズズッっと剣が刺さっていくと、コボルトが動かなくなった。

 死んだようだ。

 玉橋さんは「ふう……」とひとつ大きく呼吸をした。

 やはりモンスターとはいえ生き物の命を奪うというのは精神的に来るものがあるのだ。

 俺はもう慣れてしまったけど。


「じゃ、魔結石を取ろうか」


「はいっ」


 せっせとモンスターの胸を掻っ捌いて魔結石を取っていく。

 この場には、俺が先に間引きしたコボルトが何体も居るから一苦労だ。


 この前はこういう時に徘徊者がやってきてしまったが、実はああいう出来事はそうそうない。

 そもそも徘徊者は数が少ない。

 それにモンスターの死体が多量に存在すると寄ってくる習性があるものの、ちゃんとした対策がある。

 理由は分からないが、魔結石を死体から取ってしまえば寄って来ないのだ。

 探索者としては金になる魔結石をホイホイ捨て置く理由もないし、普通に探索していればまず徘徊者に襲われる事はない。

 後はすぐにその場を後にすれば問題ない。

 

 前回に関しては想像以上にコボルトをおびき寄せてしまった事と、魔結石を取らずに2人で話し込んでしまったのが原因だ。

 また同じミスは繰り返さない。


 ちなみにだが、俺は徘徊者を倒した事で結構レベル上げが出来たようだ。

 学校や大きめのダンジョンに設置してある機械で気軽に測定できるのだが、今日ダンジョンへ入る前に測ったらガッツリと様々な数値が上昇していた。

 そういう意味では、昨日の徘徊者との戦闘はと言えるかもしれない。


「こっちは取り終えました!」


「うん、俺も終わったよ」


 2人で魔結石を見せ合う。

 1つ1つの大きさはビー玉程度で、徘徊者のモノと比べるとだいぶ小さい。

 それが11個、もちろんだがコボルトの死体の数と一緒だ。

 取りこぼしは無い。


 それを全て一旦俺が両手の平に預かる。

 もちろんだが魔結石はコボルトの血でベトベトだ。

 このままだと仕舞いづらい。


「いま、水を出しますね」


 玉橋さんはそう言うと腰に差していた30センチほどの長さの棒を右手に持つ。

 魔法を発動する為の杖だ。

 そして俺の手に杖をかざすと、少ししかめっ面をしながら何やらみょんみょんと念じ始める。


『清らかなる水よ』


 しばらく集中した後に呪文を一言唱えると、杖先から水がチョロチョロと出てきた。

 水魔法だ。

 音と見た目がなんだか昨日の玉橋さんの……ゲフンゲフン。

 俺は雑念を追い払って、玉橋さんの出してくれた水で魔結石を洗う。


「ありがとう。魔法ってやっぱり凄いね」


「い、いえ。このくらい全然……」


 玉橋さんは謙遜するが、この程度の魔法なら大した練習もせずに覚えられるらしい。

 彼女は元々魔力が一般人の10倍以上の高さがあるという素晴らしい才能を持っているんだとか。

 だから進学は俺と同じで比較的楽だったはずだ。

 探索者養成学校はそういう才能を持つ若者を率先して集めているからね。


「いやあ凄いよ。俺はいちいち布で拭いてたから。玉橋さんが居てくれると凄い助かるよ」


「お役に立てて嬉しいです!あ、そろそろ……」


「うん?」


 玉橋さんがおずおずとジャージのチャックを下ろしだす。

 下は体操着だ。


「スキルの効果、切れちゃいましたよね?」


 そう言いながらさらにその体操服をたくし上げる。


「コッチでも、しっかりお役に立ちますから……」


 そう言って顔を赤らめながら、水色のブラジャーとそれに包まれた豊満な胸を俺の目に晒す。


「たくさん見てくださいね?」


 ゴクリ、ツバと息を呑み込む音が自分の喉から鳴った。

 こんな可愛い子のあられもない姿、たくさん見るに決まっている。

 ダンジョンの中でのクラスメイトが露出行為。

 シチュエーションに興奮して頭がクラクラだ。


「江口君、すごいことになってます……。良かった、です」


 玉橋さんも、俺の一部分に釘付けになっていた。

 えっちすぎるだろこの子。


 俺はもう、玉橋さんにメロメロかもしれない。

 

 


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