第10話 恋する少女の夜模様

(わあああああ送っちゃったあああああっ!)


 1人の少女が、ベッドの上で脚をバタバタとさせながら悶えていた。

 少女の名前は玉橋鈴香。

 手にスマートフォンを握りしめて、たった今送った自撮りに既読がすぐに付いたのを見てさらに悶える。

 

(どうしようどうしよう!引かれないかなぁ?)


 今しがた送った自撮りは先程シャワールームにおいて撮った、他人に送る写真としてはだいぶ過激なモノ。

 彼女はそんな自撮りを送ってしまったという事実に、恥ずかしさとドキドキが混ざってフワフワするような感覚を抱いていた。


 江口杉男。

 学校の隣の席の男子。

 彼の事は、1ヶ月ほど前の入学当初から気になっていた。


 探索者学校に進学した当初、元来引っ込み思案な彼女は新しい環境に適応できるのか不安だらけだった。

 一応この学校には幼稚園以来の大親友である同性の幼馴染も進学していて、奇跡的に寮の同室になるという幸運にも恵まれる。

 出だしは上々かと思われたが幼馴染とはクラスが別々になってしまったので、その点において大いに不安だった。

 

 入学式の翌日、新しいクラスにおいて積極的な生徒は周りの同級生に話しかけて新しい交友関係を築き上げていた。

 そんな彼らを見て、自分も!と思うが内気な彼女には中々その一歩が踏み出せない。


「初めまして。よろしくね」

 

 そんな時に、話しかけてくれたのが隣の席の江口杉男であった。

 

 その時の話の内容といえば普通の挨拶に始まり、その後はとりとめのない世間話が続くという大した内容では無かった。

 だがその時の会話によってどれだけ彼女の緊張が解れ、助けになったのかは言うまでもない。

 お陰で彼女も落ち着きと勇気を持つことができ、ぎこちないながらも他の生徒に話しかける事ができるようになった。


 そんな事があってから、学校において気づけば江口杉男の事を目で追うようになったり、寮の自室に戻れば「彼は今どんな事をしているのか」と考えるようになったり。

 意識し始めると、普段の学校生活で彼に話しかけられた時に緊張してしまうようになったり。


 彼の事が、気になって気になって仕方がない。


 そして今日、色々な出来事が重なり彼とダンジョンでの一時を過ごす事になったのは予想外だった。


 ダンジョン内での出来事は思い出すだけでも恥ずかしい。

 自分のあられもない姿を2度も目撃されてしまい、羞恥で死にそうだった。


 そんな中でも彼に助けられた時はまるで白馬の王子様が迎えに来たような感覚だった。

 そして強敵を迎え撃つ彼の姿はまるで魔王に戦いを挑む勇者のようで。


 彼の姿を見ているだけで心臓の鼓動が早くなるのを自覚した。


(わ、私、江口君の事を……)


 そう考えるのは時間の問題だった。

 

 彼は、性的に興奮すると自身と相手を強化できる。

 そんな事を教えられた彼女は、どうするか。

 性格は内気だが、性の事柄に関しては年相応に興味のある彼女には思いつくことがあった。

 弱い自分が江口杉男の役に立てる事なんて中々ない。

 あるとしたら、そう。


 えっちな事で頑張るのである。


 幸いというべきか、相手は意中の男性である。

 異性へのアピールという点でも理に適っていた。


 ベッドの上で悶えている内に気が付いた。

 不思議と湧いてくる力と高揚感。

 今まさに、彼のスキルが発動している。


(え、江口君が、私で興奮してくれてる……!)


 理由といえば、十中八九先程送った自撮りが原因であろう。

 現在のシチュエーションなど込みで、彼女自身も少し興奮していた。


 ピロン。


 スマートフォンから通知音が鳴り、慌てて内容を確認する。


《とってもえっちです。『スケベ』も発動しました》


(江口くん~!!!表現がストレートだよおおお!!!)


 それがまた彼の良いところであるとは彼女も理解していた。


《良かったです!》


 と送り、一息つく。

 枕に顔を埋めながら、ふと考える。


(江口君、興奮してるみたいだけど、その後どうするんだろう……?男の子はこういう時……!)


 年頃の男性が、興奮して性欲をもて余した時にどういう行為に及ぶのか。

 保健体育の授業やネットで聞きかじった内容を思い出してまた悶える。

 江口としばらくやり取りをして、おやすみなさいと送った後でも頭の中の妄想は止まらない。


(もしかしたら!もしかしたら!さっき送った自撮りで……!!!)

 

 再び脚をジタバタさせているが、彼女としてはもちろんである。


「すず、どったの……?」


 不意に声をかけられる。

 寮の自室で自分に声をかけてくる人物はもちろん1人だけ。

 この部屋で一緒に生活している幼馴染の千浦 亜梨沙ちうら ありさだ。

 彼女は昔から社交的で人付き合いが良く、今ではいわゆる白ギャル美人だ。

 美少女である、という点を除けばだいぶ対照的な2人だが、自他ともに認める大の仲良しである。


「あ、あーちゃんおかえりっ!」


「うん、ただいまー。……で、さっきのジタバタはなんだったの?」


「え、えー?ナンノコトカナー?」


 (言えない……同級生の男子に手ブラ姿の自撮りを送ったなんていくら大親友の幼馴染でも言えない……!)


「あやしーなー……あっ。まさかオトコ!?」


「ち、違うよ違うよ!」


「まさか先にカレシ作ったりして抜け駆けしようなんて考えてるー!?」


「してない、してないよー!」


 いかにも男慣れしてそうな見た目に反して亜梨沙は鈴香と同じく交際経験のないピュアな少女である。

 そしてそんな彼女は、まさか幼馴染が同級生の男子にえっちな自撮りを送っているなどとは思いもしない。


 亜梨沙に対して必死に誤魔化しをしながら、鈴香はあることに気が付く。


(あれ、一度切れたスキルの効果がまた発動してる……。しかもさっきよりも強めに……!)



 つまり、そういう事である。



 鈴香はその夜、身も心もだいぶヒートアップして寝付くのに時間がかかった。


 

 亜梨沙は、幼馴染のベッドから何やらゴソゴソとした音が聞こえてくるのに気が付く。

 だが「まあお互い年頃だし、自分もたまに……」などと思い、気付かないフリをしてあげる事にした。



 若人たちの夜はこうして更けていく。







――――――――――

※設定の変更により玉橋さんの下の名前を変更しました。


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