第7話 すごく良いモノを見せて貰ったよ

 先に動いたのは徘徊者だった。

 その長い脚を使ってグッと距離を詰めて来てからの、腕を振って薙ぎ払うような攻撃。

 腕の長さは2メートルほどあるだろうか、かなりの攻撃範囲だ。

 俺はそれを後ろに勢いよく跳んで躱す。


「うおっ!?」


「クキ……キココ……!?」

 

 『スケベ』スキルによって強化された脚力は予想以上だった。

 俺は簡単に4、5メートルほど後ろへひとっ跳びしたのだ。

 戦闘靴の靴底でダンジョンの地面を「ズザザザッ」っと削りながらなんとか止まる。

 自分で言うのもなんだが、常人の動きじゃないなこれ。

 

 「できればこの身体能力に慣れてから戦闘に入りたかったけど……」


 俺は呟きながらも低い姿勢を取る。

 後ろへ下がるのにこんな動きが出来るのなら、前へ詰めるのに使えば……。


「徘徊者、腕試しの相手としては不足無しだな」


 思いっきり地面を蹴る。

 その瞬間に凄まじい加速感。

 徘徊者の間近へと距離を詰めるのは一瞬。

 そして俺は、自分の強化された脚力の事を大体予想して動いていた。


「はぁあッ!」


 徘徊者の横を通り抜けるように動きながら、すれ違いざまに相手の胴体へメイスをぶち込む。

 腕の力だけではない、距離を詰めるための加速まで利用した強烈な一撃。


「カキャ……!キキキ……キキキキアアッ!!!」

 

 まるで弦楽器の高い音をかき鳴らしたかのような声。

 徘徊者のけたたましい叫びだ。

 苦痛に歪んだその声が、俺の攻撃の威力を物語っていた。


「ケキャアアアッ!!」

 

 俺を追って振り向きながら、再び長い腕を振って攻撃。

 裏拳のような動きだ。

 俺はそれに合わせてメイスを振って、相手の腕の肘に命中させる。

 グシャリという音と共に、徘徊者の右肘が完全に破壊された。


「ク、グウッ!キャアアカ……コココッッ!!!」


 相手は右腕の肘から先をぷらんとさせながら、またもや叫び声を上げる。

 うるさい悲鳴だ。

 かなりこちらの攻撃が効いているみたい。


 そして俺は、先ほどから相手の攻撃に対して完璧に反応が出来ている。

 いや、反応出来過ぎている。

 完全にを取れていた。

 やはり身体の筋力だけでなく、動体視力や反応速度などの神経系統も強化されているらしい。


「『スケベ』スキルすっご……」


 少し感動を覚えながら、俺は徘徊者に対して攻撃を続ける。

 

 横や後ろに回避を兼ねた跳躍を行いつつ、その合間にメイスで叩く。

 いわゆるヒット・アンド・アウェイ戦法。

 そんな合間の攻撃でもしっかりとした威力が出ている感じ。

 今なら硬い岩だって叩き割れそうだ。

 

「江口君っ!頑張ってくださいっ」


「おう!」


 玉橋さんもよう応援してくれちょる。

 女の子の黄色い声援は普通に嬉しいです。


 しかしそうこうして戦っているうちに、己の身体の異変に気が付く。


「身体強化が、弱まってきている……?」


 筋力や瞬発力なんかが少しずつ落ちてきている感覚があったのだ。

 もう戦えない、というほどではない。

 だが、今まで完璧に回避できていた徘徊者の攻撃に少しずつ当たるようになってきた。

 どうやら『スケベ』スキルの身体強化の効果時間の終わりが近づいているようだった。


「くッ。早く、決着を付けないと!」


 このままではジリ貧。

 長期戦になると俺が不利になるのは明らか。

 早く決着を付けないと!


「おらぁッ!」


 俺は戦いを終わらせるべく、思い切って相手の懐に飛び込んで強烈な一撃を食らわそうとする。

 そして攻撃は、確かに相手の胴体へ命中した。

 しかし俺の想定以上に強化効果が弱まってきていたのか、徘徊者へのダメージは限定的だった。

 それどころか、手痛い反撃を食らってしまう。


「キ……キキッ!」


「ぐあッ!?」


 徘徊者の腕による攻撃が、カウンター気味に俺へとキマる。

 俺は相手の攻撃をモロに食らって何メートルも地面を転がった。


「ぐ、ふぅ……ハァ……」


「え、江口君っ!?」


 玉橋さんが俺の名前を呼ぶのが聞こえる。

 しまったな。

 やっぱり先に逃げて貰えばよかったか……。


 徘徊者が地面へ横たわる俺にトドメを刺そうと、ゆっくりとした歩みで近寄ってくる。

 目も鼻もなくただぽっかりと穴が空いただけの顔だが、それでも俺には勝利を確信して気持ちの悪い笑みを浮かべているように見えた。

 俺はそんなヤツの顔をギッっと睨みつける。

 

「くそッ、こんな浅い階層で、敵に負けたくなんてない……。立たなきゃ、立ち上がらなきゃ……!」


 身体を起こそうとするが、思うように力が入らない。

 『スケベ』スキルの一時的な強化効果が、完全に切れたのだ。

 

 くそ、ここまでか……。


 そう思った時、徘徊者の後ろから近づく影。


「やああああッ!」


 玉橋さんが剣を振りかぶりながら駆け寄ってきて、徘徊者の背中に一撃を食らわせたのだ。

 しかし、ダメージは与えられなかったようだ。

 剣は敵の背中に弾かれて、玉橋さんはそのまま落としてしまった。


「キキ……?キキキッ……」


 徘徊者がニタリと笑うかのような声を出しながら、ゆっくりと玉橋さんの方へとその細長い体躯を向ける。


「あ、ああっ……」


 絶望の表情を浮かべる玉橋さん。

 徘徊者が腕を引き、思いっきり横に凪ぐ。


「危ないッ!」


 思わず声が出る。

 やられた……そう思ったが大丈夫だった。

 玉橋さんが丁度良いタイミングで腰を抜かし、地面にへたり込むことで相手の攻撃を躱したのだ。


 「ひッ、やあっ……」


 大股を広げて地面に尻もちを付きながら後ずさろうとする玉橋さん。

 だが恐怖で震えているからか、上手く後ずされていない。

 そして、それにほくそ笑むように、徘徊者が彼女へ一歩近づいた。


「やっ、こ、来ないでっ……」


 そんな彼女の悲痛な声と共に、なにやら不思議な音が聞こえてきた。


 ――チョロチョロチョロロロロ……。


 ……なんかさっきも聞いたなぁこの音。

 玉橋さんは、恐怖のあまりに本日2度目の失禁をしてしまっていたのだ。

 大丈夫かな、尿道緩すぎやしないか。


「え、江口君、見ないで……」


 いやそんな事言われても、絶対見るって(ゲス顔)

 玉橋さんのパンツはあっという間にシミが広がり、そしてクロッチの部分からスローモーションのように黄金の液体が染み出してくる。

 そしてジワジワジワと地面に広がっていった。

 

 俺はそれを舐め回すように凝視する。

 超絶美少女クラスメイトの貴重な失禁放尿シーン。

 正直に言うとだいぶ股間が固くなってくる光景だ。


「ひゃっ、やああ……」


 玉橋さんは俺の遠慮の無い視線に気が付いて、顔を真赤にして涙目。

 彼女の羞恥に染まった顔、ホント最高にエロ可愛いな。


 だが、玉橋さんもようだ。

 わざとなのだろう、

 むしろわざとらしくグイッと開脚したりして、自分の痴態を俺に見せつけているようだった。


「……ありがとう、玉橋さん。すごく良いモノを見せて貰ったよ」


「は、はい……。い、いまので。十分でした、か?」


 玉橋さんが顔を真赤にしながら俺へと問う。


「ああ、そりゃあもう」


 その答えを聞いて、彼女は優しく微笑んだ。


 俺はゆっくりと立ち上がる。

 そう、玉橋さんの献身的な失禁行為によって、俺の『スケベ』スキルが再度発動したのだ。

みなぎる力の大きさは最初の発動時とは比べ物にならないくらい強力で。

先ほどの光景がどんだけスケベな出来事だったのかを物語っていた。


 「さてと……」


 なぜお前は起き上がれているんだ?という疑問を浮かべているような様子の徘徊者。

 悪いな、これが『スケベ』の力だ。


「第2ラウンド、開始だッ!」


 俺は素早く戦闘態勢を取り、驚異的な脚力で距離を詰めて決着をつけにかかった。

 

 

 



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