第6話 つまり私で性的に興奮しているという事ですよね?
「つまり、です」
玉橋さんが真剣な顔をして話を続ける。
この人、どんな表情をしても可愛くて美人だよなぁ。
「え、江口君が私で性的に興奮してくれる事で、私と江口君、共に強くなるって事ですよ……ね?」
発言はとんでもねぇけど。
「まあ、そういう事だよね」
「たしかに先程から不思議と力が湧いてきて、カラダも軽くなったような気がします!」
そう言いながら玉橋さんはその場でぴょんぴょんとジャンプし始めた。
うん、顔は必死だがあんまり跳べてない。
ただし、たゆんたゆんするデッなお胸がとても良い。
「ど、どうでしょうか?」
「う、うん。まあ多分、強化されてるん……じゃない?」
「やった。うれしいですっ」
かわいい。
彼女の喜ぶ顔に癒やされる。
はあ、こんな人とパーティが組めたらな……。
俺の思いをよそに、玉橋さんはニコニコしながら喋りかけてくる。
ここで出会って最初の頃よりも饒舌だ。
「そ、その……あのっ、お、お願いがあります!」
「お願い?どんな……。――ッ!」
玉橋さんの質問に聞きかえしたところで、ダンジョン内の空気が急激に冷え込んだかのような悪寒が背筋を走った。
モンスターの気配だ。
しかも何か、只者じゃない感覚。
ねっとりと、闇の奥底から手を伸ばしくてくるような悪意と憎悪。
まるで邪悪そのものに見つめられるような気持ち悪さ。
「コ、キキッ、キココ……」なんて気味の悪い声まで聞こえてくる。
「何か、来る」
「私も何か嫌な感じが……。これはコボルト、ですか?」
「いや、全然違う。この感じは初めてだ。もしかしたら……」
強力で邪悪なその感覚は、コボルトみたいな弱いモンスターとは比べ物にならない。
気配が近寄ってくる方向をジッと睨む。
スキルで視力が強化されているのだろうか、遠くまでよく見える。
すると、薄暗いダンジョンの奥に、何者かの影が薄っすらと浮かび上がった。
人間とは思えない高い背丈。
痩せた体躯。
細いが異常なほどにまで長い手足。
全身黒くノッペリとした見た目。
そして顔の真ん中には大きくぽっかりと空いている穴。
その中は真っ暗な底なし沼のようで、ただただ闇と不気味さを湛えている。
「あれは、
「はいかい、しゃ……?あの、初心者殺しなんて言われてる……」
「ああ、それだ。モンスターを大量に倒した後に、その場で留まり過ぎたんだ。……完全に油断していた」
普通ダンジョン内のモンスターというものは、その階層の深さに比例した強さを持つ。
階層が浅ければ弱く、深くなるほど強くなる。
だから探索者は己の強さに見合った階層で戦闘していれば、安全にダンジョンを探索できる。
だが稀にその階層の深さに見合わない強力なモンスターが出現する場合もある。
さらにその強力なモンスターの中でも決まった行動範囲や縄張り意識を持たずに、ただひたすらダンジョン内を休むこと無く歩き回る個体がいるのだ。
それが「徘徊者」。
奴らは死体の臭いを嗅ぎつけたり、同じ場所に留まり続ける者たちへ敵意を剥き出しにする。
「徘徊者」とはダンジョンが作り出した不確定要素であり、俺達探索者の探索を困難にする者。
出逢えば、その強さからパーティメンバーが全員皆殺しにされるなんて当たり前だ。
「に、逃げましょう江口君!」
「だめだ、もう手遅れだよ。奴はもう完全に俺達を標的として捉えている。ダンジョンから出る隙なんて与えてはくれないだろう」
「じゃ、じゃあどうすれば……」
このダンジョンは、学園都市で学ぶ生徒用だけあって、実際に命を落とすことがないいわゆる「安全ダンジョン」だ。
死ぬような傷を負ったり、もしくは心が壊れるほどの精神的負荷がかかるなどすると強制的に不思議な力でダンジョンの外へとテレポートされる。
それは「死に戻り」なんて呼ばれている。
そして出てくる時には身体の傷や破壊された装備は元通りになるのだ。
ただしダンジョン内で得た産出物や、持ち込んだ物でも使ってしまった消耗品などは戻ってこない。
そして何より、「死に戻り」とは実際に死亡するような錯覚を覚えるようなほど、リアルな体験らしい。
その恐怖は相当でかなりキツイとか。
探索者育成学校では多数のカウンセラーが居て、充実したカウンセリングが受けられるようになっているのはそのためだ。
普通なら、逃げるべきだと思う。
だが、俺は下がらない。
メイスをしっかりと握りしめ、徘徊者の方へと一歩踏み出す。
「え、江口君?」
玉橋さんが驚きの声をあげる。
「俺は戦うよ、玉橋さん。死に戻りするかもしれない。だけど、一流の探索者を目指す為には避けては通れない道だ。だから、戦う。それに……」
これが一番大きな理由な。
「せっかく発動した『スケベ』スキル。その強さを確かめたいし」
「江口君……」
俺はさらに歩いていく。
「俺が時間を稼ぐから、玉橋さんはその間に逃げて」
「そ、それは……嫌、です」
「えっ?」
玉橋さんの思いがけない返事に少し驚く。
振り返ると、彼女は覚悟を決めたような表情をしていた。
「私も、立派な探索者を目指す1人の人間です!弱くて、臆病で、どうしようもない探索者の卵ですが、それでも……」
玉橋さんは一呼吸入れて、続ける。
「私を助けてくれた人を、見捨てて逃げるような事はしたくありませんっ!」
「……立派だね、玉橋さん」
「いえ、私なんか……。そ、それに!江口君のスキルのお陰で、今の私は強くなってるんですよね?」
そういえばそうだった。
「だから、足を引っ張ったりは、しません!」
そう言いながら、玉橋さんは俺に続いて足を踏み出し、駆け出す。
「私も、戦いま……きゃああああっ!?」
そして3歩目でステーンと盛大にすっ転んで、ド派手なヘッドスライディングをキメた。
突き出された形の良いケツがほどよい大きさでとってもエッチ。
……筋力なんかが強化されていても、持ち前の運動オンチは改善されないのかもな。
自分のスキルに対しての知見が深まった。
「い、いたたた……」
「大丈夫?」
「ひゃ、ひゃい。なんとか、あうう……」
身体を起こす玉橋さんは、擦り傷だらけだ。
ほんとに大丈夫なのだろうか。
「玉橋さんには、下がって戦闘のサポートをして欲しい……かな?」
「わ、わかりました……。お役に立てずごめんなさい……」
「いいんだよ、気にしないで。それに俺も男の子だからさ」
「?」
「女の子の前で戦って、カッコイイところを見せたいなんて気持ちもあるんだよね」
玉橋さんはそれを聞いて微笑んだ。
そして小声で呟く。
「今でも十分カッコイイですよ……」
「ん?今なんて?」
「い、いえ!なんでもありませんっ!」
顔を赤らめた玉橋さんがちょっと慌てるが、一体なんてつぶやいていたんだろう。
ま、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
再び徘徊者の方を向く。
だいぶ近寄って来ていたみたいだ。
もう既に戦闘距離だろう。
「さてと。『スケベ』の力、試させてもらおうか」
「クキキキッ!!カココココッ!!!」
俺の呟きに答えるかのように、徘徊者が気味の悪い叫び声を上げた。
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