第5話 即◯ボって即ハメボ◯バーの略らしいですね

「スケ……べ?……江口君が発現したスキル、ですか?」


「そう、そのスケベ」


 正直言って、こんな簡単に発動するとは思わなかった。

 自分に発現したスキルがどんなものなのか。

 発現した当日に3つとも調べたのだが、唯一不確定な情報しか見つからないスキルがあった。

 『スケベ』スキルだ。

 幸いにも身内の伝手を使う事によって詳細な事実を知ることができたのだが。


 結果、俺は『スケベ』スキルに大きな可能性を感じた。

 発動すれば力になると。

 ただし、その難易度は俺にとってすごく高い、ハズだった。

 

「『スケベ』の発動条件はシンプルで、文字通りな出来事が起こればいいらしい」


「……スケベな出来事」


「そう。例えば、だけど……スキル所持者を著しく性的に興奮させる出来事、とか」


 そう言いながらついつい玉橋さんの下半身をチラリと見てしまう。


「せーてきに、こーふん……?」


 俺の言っている事がうまく飲み込めないらしい。

 だが玉橋さんは俺の視線に気が付いて自分の下半身に目を向けた後、今度は俺の下半身に目を向けることで全てを悟ったようだ。


「あっ、せ、性的にっ、ここ興奮……!」


 またもや玉橋さんの顔が真っ赤になった。

 

「そ、それでそれでっ!その、効果というのはっ、いったいなんでしょうか!?」


 ちょっとエッチな方向に行った会話の流れを修正したいのか、玉橋さんがやや食い気味に質問してきた。


「判明しているだけでもいくつかあるみたい。……たしかひとつは、身体能力なんかを一時的に大幅強化する、だったかな」


 俺は調べた内容を思い出しながら話す。


「強化の内容は筋力や反射神経、動体視力や思考力なんかも当てはまって多岐に渡るとか」


 そう言いながら、俺はその場でクルリとバク宙した。

 しかも3回転。

 こりゃ身体全体のバランス感覚なんかも強化されてそうだな。


「わぁ……す、すごいですっ!」


「ありがとう。……あとは一時的だけじゃなくて、恒久的な強化もあるらしい。少しだけね。『スケベ』が発動する度に累積していくんだって」


「こ、恒久的に、つまりずっと、ですか。そして累積すると。それは……『強化』というよりも、まるで『成長』ですね」


「たしかにそうだね。……自分を成長させるスキル、そう聞くとなんだか凄そうに思えてくるかも」


「そう、ですねっ」


 なんだか玉橋さんとの会話のキャッチボールが上手く良っている。

 コミュ障同士でもこんな事ってあるんだな。

 

「で、さらにだけど。たまーに新しいスキルを発現することがあるみたい。これも『成長』と言えるんじゃないかな。時間が立つと消えるとかじゃないらしいから」


「あ、新しいスキルまで……!すごいじゃないですか、『スケベ』スキルっ!」


「まあ、確率はすごく低いらしいけど……」


 なんだか玉橋さんはワクワクした表情を浮かべている。

 表情がよくコロコロ変わる人だなぁ。

 ……すっごく可愛いんで、良いと思います。


「で、これがすごく重要な事なんだけど……」


「は、はい!なんでしょう?」


 玉橋さんが俺に近寄ってきて、神妙な面持ちで耳を傾けて来る。

 なんだか、物理的にも心理的にも距離感が縮まってきた気がする。

 俺の勘違いじゃないといいけど。

 今から言う事、驚いてくれそうだ。


「これらの効果は、スキル所持者を興奮させた相手にも発動するらしい」


「ん、えっ……?」


 玉橋さんは難しい顔をして、今俺が言ったことを必死に頭の中で咀嚼しようとしている。

 

「え、えっと、つまり……」


 意味を飲み込めてきたかな?


「あの、まずご確認したいのですが……」


「うん」


「江口君はいま、わ、わたしで、興奮してくれていますか?」


「……うん?」


 どんな質問だよそれ。

 玉橋さんは俺の曖昧な返事を肯定と受け取ったのか、さらに問を続けてくる。


「すごく……ですか?」


「…………うん」


「……性的に、ですか?」


「まあ、えっとお……なんというか」


 俺の状態をみりゃあわかる事だけど、どうやら玉橋さんは俺の口からハッキリと言って欲しいようだ。

 表情もどことなく期待に満ちていて、目がキラキラしているような。


「まあ、ぶっちゃけ、なんというか。今の玉橋さんは、めっちゃドチャ◯コで即◯ボだと思う」


「ど、ど◯ゃしこ、そ◯はぼ……?」


 うおおおおっと!

 何言ってんだ俺。

 どセクハラじゃねーか。

 ダメだ、この場の空気と興奮で色々と頭がおかしくなっている。


「ごめんなさい!今のナシで!何も聞かなかったことに!」


「意味がよくわからないのでなるべく詳しく教えてくれませんか?『どち○しこ』と『そくは○』とはいったいなんのことですか?」


 玉橋さんがすごい早口で食いついてきた。


「アレですか!?やっぱり、えっちな単語なのでしょうか!?」


「……聞かない方が良いと思うけど」


「き、気になりますっ!」


「……引いたりしない?」


「はいっ!大丈夫です!」


「……軽蔑したりもしない?」


「江口君は私を助けてくれましたし、どんな事を言っていただいても構いませんっ。そ、想像するに!多分、え、えっちな事だと思いますけどっ……思いのままに言って教えてください!」


「……はい」


 この子意外と下ネタ好きなのかもしれない。

 これは期待に答える……べきなのか?


 俺は一呼吸置いて。




 


「……つまるところ、今すぐ玉橋さんで◯●◯を✕✕✕して△▲△したうえで■□■したいぜ……みたいな意味?」


 言いいながら死にたくなってきた。


「ふえ……ん……?あっ、ふ、ふーん……………………………………はい……………………なるほど」


 何かこう、物事の核心を知った!みたいな真面目なキメ顔の玉橋さん。

 ……というかそこは「なるほど」なんて返事じゃないのでは。

 「最低ッ!最悪ッ!」とか「キモいです、死んでくれませんか?」なんて言う場面ですよ。


「りょ、了解です江口君」


「……うん?」


「ばっちり把握しました!」


 ……この子は一体何に対して了解把握しているのだろうか。

 







 

 

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