第25話 現状2

「シトゥル、コーヒー淹れて」

「…え?ないけど」

「じゃあ、お茶でいいよ」

「…ないって」


僕は、首を傾げながらシトゥルを見る。

彼女も、僕を見ながら首を傾げていた。


「お金ないもの…水でよければ貰ってくるけど」


世知辛い。

ああ、水袋があったな。

僕は、ウェストポーチから水袋を出す。

そして、同じくポーチから取っ手付きのカップを2つ出した。

カップにそれぞれ水を注ぐ。


「魔道具じゃないですか、ご主人様」


僕は、言われて水袋を見る。

確かに、無限に湧く水袋ってそうなるよな。


「いえいえ、そっちだけじゃないですよ。

こっちのカップも…って、私!?」


カップの側面には、確かにシトゥルの元の姿猫竜が描かれていた。

それも、彼女のトレードマークである尻尾のピンクの差し色付きで。

どうやら、確定のようだ。

これは、僕の契約神のアイツが寄越したものだということが。

もう1つのカップの側面には、僕の似顔絵が書かれていた。

ちょっと、デフォルメされてはいるけど。


「どうやら、僕らの神からの贈り物みたいだな。全部」


全部がそうだとするのなら、最後のマナスライムから落ちた本も重要なもののような気がする。

僕は、テーブルの上にウェストポーチから9冊の本を積み重ねる。


「あら、ご主人様魔道書なんて持ってたの?」


ああ、これは魔道書なのか。

確か、???の知恵って本だったな。

つまりは、契約神の知識が詰まっているということだろう。


「シトゥルって、なんの魔法が使えたっけ?」

「私は、風と光ですよ…そんなことも忘れたんですか?」

「いや、確認だから」


シトゥルは、風魔法と光…それも上位の聖属性を使うことができるドラゴンである。

ただ、かなり希少な種族の為存在を秘匿している。

実は、今現在人間…獣人の姿を取っているのもそれが理由である。

猫竜は、愛玩獣として希少価値が高く乱獲をされ種の危機に瀕している。

ちなみに、僕がシトゥルと契約しているのは彼女の母親である太古竜エンシェントドラゴンから賜ったから…ゲームのイベントでね。

シトゥルも、契約神もゲーム時代からのパートナーである。

それに、彼女の母親 リーシェは僕の初代のパートナーである。

リーシェを故郷へと連れていき王位に就かせた。

自由の利かなくなった彼女からシトゥルを託されたというわけだ。

はぁ、あのイベントはくそ長くて大変だったな。

竜界大戦で勝利って、ホント運営の頭を疑ったわ。

契約神とバカみたいな性能の武器を作ってなんとか勝ったんだったな。


「おーい、ご主人様」


僕は、シトゥルに呼びかけられていた。

彼女は、いつの間にか対面の席に腰を下ろして本を読んでいた。

緑の背表紙と白の背表紙の物だった。


「ああ、えっと。なに?」

「はぁ、やっぱり聞いてなかった…少し見たんだけどこっちの色のついた本は各属性の魔道書で、この革のは…私には開けない」


僕は、ふむふむと相打ちを打ちながら革の背表紙の本を手に取る。

裏表紙から、表紙に対して留め金が通っている。

えっと、ダイアリー…日記帳みたいな見た目だな。

僕は、そう思っていた。

そして、留め金を外そうと力を籠める。が、殆ど力を籠める必要もなく外れた。


「あのさ、シトゥル。普通に、開いたんだけど」

「…私には、無理だった」


シトゥルは、頬を膨らませながら僕を睨んだ。

ちょっと、可愛いとさえ思ってしまう仕草だ。

取り敢えず、知恵の本9巻目に目を通してみよう。

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