V

◆◆◆ (side???)


 起きた時の記憶がないのに、何故か既に起きていた。


 というなんとも言えない不思議なことが起こってから数日が経った。


 いつもならこんなこと、すぐに忘れてしまうのに。


 何故かこの不思議な出来事が最近頭にチラつくようになった。


 ……不思議。




 今の私はポストをガサガソと漁っている。


 勿論、何かを盗もうという訳ではない。


 来てあるであろう封筒を探しているのだ。


 


 私は、中学生の頃からVtuberなどの配信者という職業に憧れていた。


 画面越しに見る配信者の人達、特にVtuberの人たちは、いつもキラキラしていて、私の心を明るくしてくれた。


 だから、私もこんなふうに誰かの気持ちを明るくさせることができるVtuberになりたい!


 そして、たくさんの人を今の私みたいな気持ちにさせたい!


 とその時に思ったのだ。


 反対されるかどうか心配だったけど、お母さんは別に反対することもなかった。


 伝えた時は一瞬驚かれたけれど、別に猛反対されることもなくて、私の夢を応援……とまではいかなかったけど了承してくれた。




 そんなこんなで初めてオーディションを受けた2年前。


 私は書類選考の時点で落ちてしまった。


 その次の、初めてだから仕方ない、と切り替えて受けたオーディションも、やっぱり書類選考で落ちてしまった。


 そして、ここから私の書類選考をも突破出来ないオーディションチャレンジが始まったのだ。




 それからは自分のダメなポイントを一つずつ洗っていったりと、まず書類選考を突破するために相当な努力をした。


 書類選考を突破するには、なるべく書類で自分の魅力をアピールしなければならない。

 

 だけど、これまでの私は殆どアピールしておらず、自分の持ち味を相手(運営)に伝える事が出来ていなかった。


 だから、私は自分の得意なことを全面に押し出すようにした。


 初めから最後まで自分が出来ることを最大限に相手に伝えるために。




 その甲斐もあってか、その後は書類選考までは残れるようになってきた。


 しかし、やっぱり現実は厳しい。


 その次のオンライン面接で手応えが全く掴めないのだ。


 何を話しても響かせる事が出来ない。


 勿論熱意は伝わっているけれど、どうも熱意がある人、という評価で終わってしまっている気がした。




 ……自分じゃ人を笑顔にできるVtuberにはなれないのかもしれない。


 それから、私がこう思うようになるまで大した時間はかからなかった。




 一瞬個人勢としてデビューするという考えも頭によぎった。


 でも、個人勢としてデビューするのはかなりのお金がかかる。


 しかも、個人勢では名が広がっていくまでに時間がかかってしまう。


 それでは私のの人を明るくするVtuberになる、という目標が達成しにくい。




 その時の私は、夢を半分諦めかけていた。




 けれど、人は簡単に夢を諦める事が出来ない生き物だ。


 私は、落ち込んでいた時に、あるVtuber事務所のオーディションを見つけた。


 これは数ヶ月までに1期生の人達がデビューして、話題になっていた事務所の2期生の募集だった。


 私はこれに、何故か運命のようなものを感じたのだろうか。


 次の瞬間には反射的に申し込みフォームへのボタンをクリックしていた。




 そして、無事書類選考を突破する事ができ、オンライン面接に今までで一番の熱量で臨んだ。


 そう、今探しているのはそのオンライン面接の合否が書かれている封筒だ。


 これで合格だったら、事務所で面接を受けることになる。


 ドキドキしながら封筒を探す。


 ん……あったあった。




 結局、お目当ての封筒はポストのかなり奥の方に入っていた。


 危うく見逃すところだった。


 危ない危ない。




 家に入ると、私は自分の部屋めがけて階段を駆け上がり、部屋で封筒の中身を確認した。


 結果は……?




松井まつい 朱里あかりさん


 あなたは二次試験合格となりました


 最終面接の日程は◯月◯日となっております》




 ……やった!!


 初めての二次試験、オンライン面接を突破出来た!




 1期生が話題となりVtuber界隈で知名度が上がってきているVTOP。


 その2期生になるチャンスがすぐそこにある。


 そう思うだけで興奮が止まらない。


 その時、私の意識は急に途切れた。




◆◆◆




 ……体が動かせるようになっている?


 この前、俺の意識が途切れた時、俺は外の様子は観察する事が出来た。


 だが、体を動かすことはできず、ただ視界を通じて周りの様子をうかがう事しか出来なかった。


 そして今、また体が動かせるようになっている。




 ……なるほど。


 俺はここで、初めて自分の状況をなんとなくではあるが捉える事が出来た。


 俺は、この人物のもう一つの人格になっていたんだ。


____________________


2024/11/24 一部展開、表現を大幅に修正

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