第4話 いびきが特殊な彼女
ニャロは意気揚々に歩いている。それも寝ずにだ。
「流石に寝ないで城内に入るのはまずいだろ...」
「そう?寝ないのも人生よ」
「意味わかんない」
この国には大きく高い、それも天に辿り着けそうな摩天楼の城があり、酒場で出会った彼女の助けをするべく歩いていた。
「あぁ、朝日が昇ってきた。」
「良いわね。朝日。眩しい。早く沈め」
「酔ってる?」
こんな感じで大丈夫なのだろうか。酒場の彼女は軍部に所属する特別なんちゃらだった。軍部ゆえに何かやらかせば非常にまずい。2度目の裁判はきつすぎる。というかあの時に軍部の人間がいてしまえばアウトな気もするけど...
「あの俺が死刑にされかけた裁判あるじゃん?」
「ええ。出会った時のね。」
「あの時にこの国の偉い人とか軍部の人間とか居なかったの?」
「あんなの、ただの好事家達の集まりよ。知られててもアホすぎて忘れてるわ。」
「えらく言うな...」
朝日が斜め上に見えてくる頃。眠気が限界に達していた。
「流石にきついかも、気持ち悪い」
「もう少しだから我慢しなさい。ほらもうこの門をくぐったら城内よ」
「はぁ、やばい」
「これくぐって横にあるドーム状の建物に行けばゴールなのよ?シャキッとしなさい」
頼りになるのか、ならないのかよく分からない。少なくとも眠気は感じていなさそうだ。
彼女が言っていたドーム状の建物に入ると、かかしに向かって剣を振っていたり、組合をしたりして鍛錬している者たちが見えた。驚いたのは男女差が半々だと言うこと。
「良くやるわねー。私なら抜け出すわ」
「同感。しかもなんだか熱気で暑いな。」
酒場の彼女はーー見えなかった。ここには居ないのか。
「君たち、何のようかい?」
後ろを振り返ると例の人がいた。だが雰囲気が全然違う。なんだか怖そうな雰囲気があり、堅苦しさまで感じる。
「あ、貴方。ちょうど良かったわ。話がウォ」
吐いてしまっている。二日酔いか?さっきまであんなに威勢が良かったのに。
「なんだなんだぁ?ゲロ吐くために来たのか?」
「そんなことは...(貰いゲロしそう)」
必死に口を塞ぐ。
「そんなことは、の続きは?」
言えない。いや言葉として言える。だけれど違うんだ。頼むよ。
「お前の口は何のためにあるんだ?」
無理やり俺の口を開こうとした時、俺もニャロと同様、無惨な姿を晒すことになった。
「誰か!この異常者二人を檻か救護室に連れて行ってくれ!」
なんとか情けで救護室に運ばれ、救護官がゲテモノでも見るような目で見てくる。
「で、君達はなんでここに来たの?酔っ払いが入ってこられると支障が出るからさ、」
「違う、ある人に会いたくて」
「そうよ。決してここを汚そうとしてるわけじゃウォ」
無理にしなきゃ良いのに。
「君は寝てて。いやお願いだから。もう処理は懲り懲りだから」
ニャロは何だか勝ち誇った顔をしながらベットに寝転ぶ。なんなんだよ。その顔。
「で、会いたい人って?」
「あの眼帯をしてる女性」
「んー。複数いるからなぁ」
「お酒が好きな」「彼女ね」
お酒好きだということだけで話が早い。
「彼女、お酒飲みすぎて体に悪いから辞めてって注意してるんだけどねー」
「名前はなんて言う?」
「名前も知らないのに会いたいのかい?」
怪しまれてるか?
「酒場で出会って...そのまま誰かに連れ去られて...」
「んーまぁ疑ってないよ。」
ニャロは爆睡しているのか、いびきをかいて寝ている。
「にゃむにゃむににゃむよむ」
「こんないびきあるんだ...」
「多分ユニコーンと同じぐらい珍しいよ。ゲロ吐くからそれよりもかな。」
思わず笑ってしまう。汚いユニコーンとか。
「話を戻すと彼女名前は、メリル・ネローナだ。」
「ネローナで良いのかな?」
「下の名前だけで呼ぶと彼女、怒るよ。」
「じゃあMrsとかつける?」
「酒飲ませたらいい」
「あんたが言うか?」
名前もしれたことだし、他愛のない雑談も終わりにして彼女の元へ向かおう。先に謝らなきゃだけど。
「色々とありがます。ネローナにはどこに行けば会える?」
「何その感謝。多分今の時間帯なら空上庭園にいるんじゃないかな」
「うい」
「...君もお酒抜けてないみたいだし寝てて良いよ。」
作戦成功。いや何一つ上手く行ってないのだけれど。
大きな怒号と共に目が覚める。
彼に「そろそろ!早く出ていってくれ!帰れない!」と言われ、窓を見るとすっかり夕方になっていることに気づいた。
隣のベットで寝ているはずのニャロを見ると大の字になってまだ寝ていた。眠気凄かったんかい。無理にでも起こさないと。
「え、もう夕方?...それも人生ね。夕方は良いわ。幻想的で」
「良いから早く行こう。現実逃避ばかりしても無駄だ」
空上庭園に彼女はまだいるのだろうか...もう夕方だし、家に帰っているのかもしれない。
「で、彼女の名前は分かったわけ?」
「ああ。なんとか。」
「じゃあ彼女に会いに行きましょ」
「目星はついているのか?」
「ふっ。私を舐めないで。絶対にいる場所に連れて行ってあげる」
群雄闊歩して歩く彼女について行くとまたあの場所だった。
そう。酒場だ。
「ああああああああああ」
「なに?お酒がそんなに飲みたかったの?」
何故気づかなかったのだろう。これじゃあただ城の中でゲロ吐いて寝ただけじゃん。てかそれをあんなニャロに思いつかれるのは心外だ。
「さっ、張り込みましょ」
「酒飲みすぎるなよ。頼むから」
彼女は三年寝太郎ならぬ二日酔い太郎なのかもしれない。
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