第3話 酒場の天才

教会を抜け静かな街をニャロとふらついていた。


「それで..."神殺しの姉"を探して行くけど何か当てはあるのか?」

「ない。」


旅終了である。


「んー。とりあえず旅仲間探す?」

「良いね。二人だけじゃ心細いし」

「悪いけど!あんたよりも強いから」

「それは失敬失敬」


彼女をチラッと横目で見る。何か武器を持っているような見た目ではない。魔術を使う...にしても杖すら無さそう。


「なんかさっきから視線感じるんだけど何?」

「武器とかは?」

「いらない」


不安になってきた。もしこれで実際はただの女の子だった場合、罵られながら守らなくてはいけないのかもしれない。


ふと空を見て気付いた質問を投げかける。


「そう言えばこの国の上は薄暗い気がする」

「当然よ。だって近くにユグドラシルって言う世界樹があるもの。誰も近づかないけどね。」


じゃあ上に見えるのは木の幹と葉か。それらの隙間から見える星々と月がより美しく、幻想的に見えた。


「まぁ、それがあるせいでドラゴンが来やすいってのは難点だけど...」

「その世界樹ってやつはドラゴンにとって大事なのか?」

「まぁね。同族の中でも選ばれたドラゴンが立ち入り卵を産むって言われてるわ。見たことないけど。」


確かに街を歩いていれば時計台に引っ掻き傷が見受けられたりする。それくらい日常に溶け込んでいる生き物なのか。


「じゃあドラゴンによる災害とかある?」

「あるわ。まぁ私もあんまり詳しく知らないけど。ここの人間じゃないし」

「そもそもー」

思わず過去のことを聞こうとしてしまった。

こういう時は黙るべきだと学んだので黙っておこう。


「なに?」

「いやドラゴンを退治する部隊があったりしそうだなーって思って」

「この国に?あったはずよ。特別な災害に対応する騎士達。正式名称知らないけど」

「じゃあそこで強い仲間探そう」

「はぁ?」

「ドラゴン倒せる部隊だぞ?強いに決まってる」


彼女は呆れたように「はぁ」と溜め息を漏らす。


「そんな部隊の人達は国に任命されてる重要的な人材よ。待遇も良ければ責任も大きいわ」

「無理か...とりあえず酒場に行こう。気分を紛らわすために」

「仲間探しでしょ。そこは...」


酒場と言っても月が真上に来る頃。起きている、あるいは明かりがついている酒場は中々見つからない。


「あー!もう!疲れてきたわ!」

「しー。夜は静かに」

「さっきまで大声で話してたじゃない!」

「さっきはさっき。今は今」

「はらたつ!」


ようやく遠くからでも明かりと笑い声が漏れる酒場らしきものを見つける。どうやら海に面しているような場所まで来てしまっていたようだ。


ドアを開け中に入ると一瞬にして静まり返る。中にいた客人達はマジマジと見続ける。すると奥のカウンターにいた髭が蛸足のように枝分かれしているおじいさんに手招きされる。


「よう。新入り。とりあえずこっちへこい」


言われた通りに歩き近づく。周りからの視線が居心地の悪さを増幅させていた。だが隣にいるニャロは全く気にしていないようだ。絶対内心「(注目は普通ね!)」とか思ってる。


「なに?」

「いやなんでも(ばれたか?)」


奥につくと彼は「お前さんたち、どこから来たんだ?」と問いかけられる。何やら試練のようだ。彼が望む答えを外せばここから追い出される可能性だってある。どうするべきかー


「そんなこと、どうでもいいじゃない。さっさと酒出してよ。ここ酒場じゃないの?」


周囲一斉に笑い声が湧き上がる。


「良いね〜。お前さんみたいなやつはここでは歓迎される。確かにな。酒場に身分も、出身地もいらねぇな。さぁ飲め。奢りだ」


この女...天才なのかもしれない。プライドが高い変なやつだと思っていたが全て計算の内なのか?


「いや身分とかはあると思うけど。ありがたく貰うわ」


絶対奇跡だ。運がついてるだけだった。


「ん、ほら」


お酒の入った木製のビールマグを俺の前に差し出している。


「?俺のはここにあるよ」

「はぁ?違うわよ。ほら持って。」


操られるようにお酒を片手に持ち

「これとこれを勢いよくぶつけてこう言うのよ。『乾杯』って」

「乾杯」

「そしたら飲むのよ。目上が先に飲むのよ」


豪快な飲み方をする人だ。お酒と顔が斜め上を向いていく。でも見てて気持ちがいい。乾杯、悪くない。


「でもここじゃあおっさんばっかね。目的は無さそうだわ」


奥で酒樽をいじっていたかと思うと実はこっそり話を聞いていた蛸髭じいさんは不満そうに

「何を探してんだい?なんだ。若い子でも探してんのかい?料理や酒ならなんでも揃ってるぞ」

「違うわ。私達、旅をしてて、今は仲間探しよ」

「あ〜そういうこったい。確かになぁ。ここのジジイ共には漁業っていう任務があるからなぁ。海からは離れなれんな。骨は海に沈めるんだ。それならそこでよぉ、酔い潰れてるねーちゃんはどうだい?剣持ってたぞ」


指さす方を見ると黒い山羊のようなツノが生えた女性がテーブルを支えに酔い潰れていた。


「あれ?まともなの?」

「さぁな。聞いてみりゃわかるんじゃねぇのか?」


ニャロはゆっくりとその女性に歩み寄る。

優しく起こすのだろうか?


「あんたに聞きたいことあるんだけど!」


だと思った。開口一番にそれかい。揺さぶるのもやめなさい。


「なぁんだ〜?」

「あんたって強いの?」

「強いに決まっちぇんだろ!?あたしはなぁ〜?ドラゴンぶっ飛ばせんだよ!片目もぶっ飛んで今眼帯だけどなぁww」

「あっそ」


ここで「あっそ」って言える神経凄いよ。酒場と酔っ払いに慣れているのか?


「ドラゴンぶっ飛ばせるなら仲間になって。旅のね」

「いいね〜ウチの職場ほんとクソだから行こっかな。まじで。何が"災害特化部隊"だよ。一般兵と同じ給料なのに危険度ちげぇー!」

「まさかあなた、この国のドラゴン殲滅部隊の一員なの?」

「なにそのだせぇ名前。」

「は?」

「まぁそうなるね〜。聞いてよ。あのクソ騎士団長、またウチに仕事押し付けてくるんだ。ドラゴンに飲まれて消えろ!」


この二人、相性良いのか悪いのかわかんねぇな。話も進んでるのか脱線しているのかいまいち分からない。


「その隣にいる連れ人は誰〜?彼氏?ウチが貰おうかな〜」

「キモい。こいつは乾杯も知らない田舎者よ。やめといた方がいい。旅仲間よ。」


聞いてりゃ凄い言われようだな...


「旅仲間か〜」

「で、どうなの。旅仲間になってくれる?」

「良いよ!あ、でもこれから大事なイベントがあるんだった。それ終わったらね〜」

「なに?そのイベント。友人の誕生日会とか言わないでしょうね」

「ぶっぶー。ドラゴンぶっ倒しパーティーでしたー。」

「はぁ?」

「もうすぐドラゴンの活動が活発に時期なの。それも今までで一番のね。」


今まで一番?やばい時に来たか?


「どうして今まで一番って言えるわけ?」

「ユグドラシルに卵が落とされたからだよ。あれが孵化したらドラゴンの王が産まれるからいろんな奴が阻止しにくるのさ。」


本当にやばい時に来たかもしれない。


後ろからドタバタと足音が複数聞こえてきた。


「あー!やっと見つけた!もーこんなに酔い潰れちゃって。お二人さん、大丈夫でした?彼女が迷惑かけませんでした?」

「ううん。全然。面白い人だね」

「普段は真面目なんですけど...ストレス発散で酒飲むとこうなっちゃって...」


後輩らしき人が彼女を指差しながら苦笑いを浮かべる。


「とにかく!彼女がすいませんでした。ほらもう帰るよ!」

「うりゃあー。働きたくないー!」

「それはみんなもだから。ね」


引きづられて彼女は酒場を後にしていった。


「あ、名前聞いてなかったな。」

「大丈夫。いずれ会うわよ。」

「どういうことだ?」


彼女は酒を頼んだ人差し指で俺を指す。


思いついたから。」

「それは?」

「ドラゴンぶっ倒しパーティーに参加して彼女を仲間にしつつ、この国に貢献する。そしてこの国の神から認められて"神殺し"の情報を手に入れる。我ながら天才だわ...」

「はぁ??」


その日、いや人生で1番の「はぁ?」が出た。


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