第2話 長針短針は動き始める
目が覚めると椅子に縛り付けられていた。そして後ろから人の気配と前には三人の人間。
僕の目がおかしいのだろうか。三人の上にはドラゴンの翼と角を持ち、黒いドレスを纏った女が浮いていた。
「お前があの魔女の養子か。ミリフォン家のセロと言うのだな。」
「どこでその情報を手に入れた?」
「神にそのようなことを聞く奴はお前だけだ。悪いがお前にはあいつの血縁者として罪を受けてもらおう。」
「なんの罪だ?彼女と過ごしていたが何も悪さはしていなかった。」
彼女は馬鹿にするかのような笑みと視線を僕に向ける。
「彼女は神に傷をつけた。それだけで重罪だ」
「...僕は何があったのか知らない。だが彼女は悪くない」
「子供みたいな理論だな。そんな子供のお前にも分かりやすく言うと、とある神が亡くなった。分かるか?人間でさえ殺人は重罪なのだぞ。」
彼女は大きな赤い槍を空中から作り出す。
「お前には罪に沿った罰を与える。この痛みは神をも苦しめる痛みだ。さぁ!喰らーー」
「ちょっとは待つこと覚えたら?」
周囲からざわめきが聞こえ、僕の前にとあるツインテールの女の子がゆっくりと歩き始める。
「この国に親族の罪を被せる法律はないはずよ。」
「貴様は誰だ」
「私?はっ!私はあんたなんかより上の!神様に使えている者よ。命は彼の保護」
「その神の名を言え。」
「それはまた今度会ったらね〜」
彼女と僕の周りに黒い霧がドーム上に覆い被さる。
「逃がすものか!」
「時間稼ぎにご協力、ありがとうございました〜」
周りの音が聞こえなくなり、視界が開けると小さな教会に来ていた。
「ごめんなさい。何の説明もなしに連れてきてしまって...」
先ほどの彼女とは雰囲気も違い、落ち着いた様子だった。
「こちらこそありがとう。命の恩人だよ」
「それは貴方がミリフォス家だからです。」
「?」
イマイチ理解できない様子をすると
「貴方にはしてもらいたいことがあるのです」
「と言うと何をすればいい?」
「それは貴方の母親にあたる、と言って良いのか分かりませんがその方の姉を探して欲しいのです。」
まさか彼女に姉がいるとは思わなかった。
「なぜ探している?」
「それは彼女こそが"神殺し"だからです。」
ようやく理解できそうになってきていた。
「昔、人間と神との争いがあったことは知っているけど、深くは知らない。」
「分かりました。それを説明した上で私の要望を語ります」
彼女は深呼吸をして静かな協会で、声が美しく響くように語り出す。
「あれは700年前、私が精霊として体を持っていた時のことです。
それまで人間と神は仲良く、どちらかが支配しあうような生活ではありませんでした。しかしとある神々が狂ったように人間を滅ぼし初めてもした。それから神と人間の間には亀裂ができ初め、争いが起こった、と聞いています。」
「聞いています?」
「はい。そのような言い方になってしまったのはあの時のことを何故か誰も覚えていないのです。ある人を除いて」
「それが姉だと」
「はい。そして私が必要としているのは彼女のその記憶ではありません。"神殺し"の能力です。」
「なぜそれを?」
彼女は一旦唾を飲み込み話し続ける。
「とある邪悪な神々がまた人間を滅ぼそうとしています。いずれ争わなくていけないのなら備えておくべきです。」
「わかった。僕も姉の存在は気になるし、協力しよう。だが君は何者なんだ?」
「私は元精霊です。今はこの体の持ち主に住ませてもらっています。」
「憑依している?」
「はい。この体の持ち主は神と人間のハーフなのです」
それならば一つの疑問が浮かび上がる
「そんな人が神殺しの人間の手伝いをするのか?」
「ええ。彼女の父である神は人間である母を殺しましたから。」
酷く辛い話だ。僕は彼女ほどの責任も使命もないのに引き受けてしまって良いのだろうか。
「といっても神にも人間にも友好な存在はいます。私達がすべきことはいずれ訪れる邪悪な神と人間の争いに備えることです。それの備えとして姉探しと友好的な神や人間と協力関係を結ぶことです」
「明確だな。だが精霊である貴方は何故人間の味方を?」
「それは単純です。貴方の母親であるミリフォス・ネルは私の母親でもありますから」
とんでもない告白に腰を抜かされてしまう。
「なるほどな。全てわかった。引き受けよう」
「ありがとうございます!では身体の持ち主に変わりますね」
一瞬、目の前にいる彼女から生気がなくなったと思ったらすぐさま
「僕呼びやめて、キモい」
「第一声がそれかよ」
思わず突っ込んでしまった。
「気をつけなさい。この国にいるあの神は邪悪でなくともあなたを危険視してる。なぜなら"神殺し"の一族だから」
「友好的にはなれないか?」
「ひとつだけ方法があるけど...それよりもまずは自己紹介よ。私の名前はアルマイル・ニャロよ。」
「僕はミリフォスー」
「僕呼びやめてって」
「すいません。」
思わずしゅん、としてしまう。
「俺はミリフォス・セロ。これからよろしく」
「はいよろしく」
彼女は教会のど真ん中に携わっている大きな古時計を見つめる。
「針は動き始めたわ」
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