第2話 音楽室の幽霊の噂 その2
翌日の放課後、五人は再び音楽室に集まった。それぞれが自分の役割に取り組んだ成果を持ち寄っていた。
智也が皆の顔を見回しながら言った。
「さあ、みんなの成果を聞かせてくれ」
美咲が手を挙げ、少し緊張した様子で話し始めた。
「私、メロディを考えてみたの。ちょっと聴いてみて」
彼女は軽く咳払いをし、優しい声で歌い始めた。切なくも希望に満ちた旋律が部屋に響く。その歌声は、まるで80年前の少女の想いを代弁しているかのようだった。
歌い終わると、颯が感動した様子で拍手した。
「すごいじゃないか、美咲!まるで、少女の気持ちが伝わってくるようだ」
香織が分厚い本を開きながら言った。
「私は音楽理論を勉強してみたわ。美咲のメロディに合わせて、こんなハーモニーはどうかしら」
彼女はキーボードを弾き始め、美咲のメロディに深みを加えた。二人の音楽が重なり、部屋全体が温かな雰囲気に包まれる。
太郎が奇妙な機械を取り出した。
「俺の音可視化装置の出番だ。みんなで試しに演奏してみてくれ」
五人が演奏を始めると、太郎の装置から不思議な光の模様が浮かび上がった。青や紫、金色の光が複雑に絡み合い、音楽を視覚的に表現している。
太郎が興奮した様子で叫んだ。
「見ろ!この青い光の筋、きっとこれが少女の演奏している部分だ!」
少女が演奏している音は聞こえなかったが青い光の筋は見えていたのだ。
そして試しの演奏をやめ颯が古い新聞記事を広げながら話し始めた。
「俺は、80年前の新聞を調べてみたんだ。ほら、ここに書いてある。『天才少女ピアニスト、大切な人への想いを込めた曲を作曲中に失踪』だって」
智也が眉をひそめて言った。
「大切な人...きっとその人に聴かせたかったんだ」
突然、部屋の温度が急激に下がり、窓ガラスが再び曇り始めた。五人は息を呑み、お互いを見つめ合う。
美咲が小さな悲鳴を上げた。
「また、窓に何か書かれてる!」
全員が窓に近づき、そこに浮かび上がったメッセージを読んだ。
「『彼の名は、健。私の想いを、彼に...』」
颯が興奮気味に言った。
「健...そうか、彼に曲を聴かせたかったんだ!」
香織が静かに付け加えた。
「でも、どうやって80年前の人に聴かせるの?」
智也が黙考した後、ゆっくりと口を開いた。
「みんな、思い出してほしい。僕たちがこの部屋に入ったとき、時間がゆがんだような感覚があったよね?」
太郎が大きく頷いた。
「そうだ!まるで過去と現在が交差しているみたいだった」
智也が続けた。
「そう、だとしたら...僕たちの演奏が、80年前にも届くかもしれない」
五人は互いの顔を見合わせ、決意に満ちた表情を浮かべた。この瞬間、彼らは単なる好奇心から一歩踏み出し、真の使命感を抱き始めていた。
美咲が小さな声で言った。
「じゃあ、私たちの演奏で、少女の想いを健さんに届けるの?」
智也が頷いた。
「そう、それが僕たちにできる唯一のことだと思う。80年前の悲しみを癒し、未完の想いを完成させる。それが僕たちの役目なんだ」
颯が拳を握りしめた。
「よし、やろう!俺たちの演奏で、80年前の悲恋を成就させるんだ!」
香織が静かに付け加えた。
「でも、どうすれば確実に過去に届くのかしら?」
太郎が機械をいじりながら答えた。
「俺の装置を改良すれば、時空の歪みを増幅できるかもしれない。そうすれば、音楽が過去に届く確率が上がるはずだ」
智也が頷いた。
「そうだね。それに加えて、僕たちの想いも大切だ。心を一つにして、全力で演奏しよう」
五人は楽器の前に立ち、深呼吸をした。部屋の空気が張り詰め、何か大きな出来事が起ころうとしている予感に満ちていた。
智也が静かに言った。
「準備はいいかい?それじゃあ...演奏開始」
五人の奏でる音楽が部屋に響き渡り、不思議な光が音楽室を包み込み始めた。美咲の歌声、智也のピアノ、颯のギター、香織のキーボード、太郎の打楽器が一つになり、壮大な音楽が時空を超えて響き渡る。
演奏が進むにつれ、部屋全体が幻想的な光に包まれ始めた。壁や床が透明になり、まるで宙に浮いているかのような感覚に陥る。
美咲が歌いながら小さく叫んだ。
「みんな、見て!周りが変わってる!」
颯が興奮気味に答えた。
「まるで、タイムスリップしてるみたいだ!」
智也はピアノを弾きながら、冷静に状況を観察していた。
「集中するんだ。僕たちの演奏が、時を超えて届くかもしれない」
部屋の中央に、霧のような靄が立ち込め始めた。その中から、一人の少女のピアノを演奏している姿がおぼろげに浮かび上がる。彼女は、美咲が見つけた写真の少女そのものだった。
香織が息を呑んだ。
「あれが...80年前の少女?」
太郎が音可視化装置を確認しながら叫んだ。
「すごい!少女の演奏と僕たちの演奏が、完全に同期している!」
霧の中の少女が、五人に向かって微笑みかけた。その瞬間、部屋の景色が大きく変化し、80年前の音楽室の姿が現れ少女が演奏しているピアノの音が聞こえ始めた。
古びた壁紙、アンティークな家具、そして窓の外に見える懐かしい街並み。五人は まるで タイムマシンに乗ったかのような感覚に陥った。
智也が声を張り上げた。
「みんな、これが最後のクライマックスだ。想いのすべてを込めて!」
五人は渾身の力を込めて演奏を続けた。
そして演奏が終わると突然、部屋の扉が開き、一人の青年が駆け込んで来ると少女が涙ながらに叫んだ。
「健!」
青年が答えた。
「葵!君の演奏が聴こえたんだ。素晴らしい曲だよ」
二人が抱き締め合う中、部屋全体が眩い光に包まれた。
そして少女が最後に五人に向かって言った。
「ありがとう。あなたたちのおかげで、私の想いが健に届いたわ。この曲に込めた私の気持ち、そして時を超えた想い、すべてが一つになったのね」
次の瞬間、音楽室は元の姿に戻った。五人は呆然と立ちつくしていた。部屋には、まだ余韻が残っているようで、かすかな音色が空気中を漂っていた。
美咲が涙を拭きながら言った。
「私たち、本当にやったの?80年前の想いを届けられたの?」
颯が興奮気味に答えた。
「ああ、僕たちは80年前の悲恋を成就させたんだ!音楽の力って、本当にすごいな」
香織が静かに付け加えた。
「時間さえも超える力があるのね。私たちの心が一つになったから、できたのかもしれない」
太郎が機械を確認しながら言った。
「信じられないデータが取れたぞ。これは間違いなく、時空を超えた現象だった!」
智也が深呼吸をして、みんなを見回した。
「僕たち、すごいことをやり遂げたね。この経験は、きっと一生忘れられないよ」
そして、智也が仲間たちに向かって言った。
「みんな、これからもこういう不思議な出来事を解明していかないか?」
その声には、新たな冒険への期待が満ちていた。
「いいね!」
美咲が即座に賛成する。彼女の目は、冒険心に輝いていた。
「私も興味あるわ」
香織も頷いた。知識欲に満ちた瞳が、智也の提案に賛同を示す。
「オッケー!俺の発明力で協力するよ」
太郎が笑顔で言う。
「僕も、もっと不思議なことを知りたい!」
颯も目を輝かせて同意した。
「よし、じゃあ正式に『怪異解明団』を結成しよう!」
智也の提案に、全員が賛成の声を上げた。5人の小さな手が重なり合う。そこには、友情と冒険心、そして未知なるものへの好奇心が溢れていた。
こうして、5人の小学生による「怪異解明団」が誕生した。彼らの冒険は、まだ始まったばかり。これからどんな謎が待ち受けているのか、誰にもわからない。しかし、5人の絆と勇気があれば、どんな謎でも解き明かせるはずだ。
そして音楽室の片隅で、一枚の古い写真があり少女と青年がそっと微笑んでいた。それは少女と青年が結ばれた証があったのだ…
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