五人組怪異解明団 〜日常に潜む怪異を解き明かせ!〜

三峰キタル

第1話 音楽室の幽霊の噂 その1

 校舎に放課後の静けさが漂っており廊下を歩く智也の足音だけが聞こえる。

ふと、どこからともなくピアノの音色が漂ってきた。優雅で、どこか切ない旋律。

智也は足を止め、黒縁メガネを直しながら首をかしげた。

「おかしいな…音楽室のはずだけど、今日は誰も残っていないはずなのに」

好奇心に駆られた智也は、音の源である音楽室へと足を向けた。廊下の窓からは、オレンジ色に染まった空が見える。彼の心臓が、期待と不安で高鳴り始めた。

彼が音楽室のドアに手をかけたその瞬間、不思議な現象が起こった。周囲の景色がゆらめき、廊下の壁紙が古びた雰囲気に変わり、窓から差し込む光が懐かしい色合いを帯びる。まるで時が巻き戻ったかのような錯覚。

「え?何だこれ…」

智也は目を擦った。瞬きをする間もなく、すべては元通りになっていた。ただ、かすかに聞こえるピアノの音だけが、この不思議な体験の名残のように響いていた。

戸惑いながらも、智也は慎重にドアを開けた。しかし、音楽室の中は空っぽだった。誰もおらず、ピアノの蓋も閉じたまま。それでも、確かに音は聞こえていた。

「これは…調査が必要だな」

智也は呟いた。論理的な彼の頭の中で、既に調査計画が立ち上がっていた。

翌日の昼休み。

校庭では、多くの生徒たちが弁当を広げたり、ボールで遊んだりしていた。その中で、美咲は友達とおしゃべりを楽しんでいた。

「ねえねえ、聞いた?音楽室の幽霊の噂」

「えー、怖いよー」

友達との会話の最中、美咲の目が体育倉庫に向いた。半開きになった扉の隙間から、古びた箱が覗いている。何か、彼女の好奇心をくすぐるものがあった。

「ごめん、ちょっと見てくる!」

元気よく駆け寄った美咲は、箱の中を探った。埃をかぶった道具や古い書類の山。そして、一枚の写真を見つけ出した。

「これは…」

白黒写真に写る音楽室。現在のものとそっくりだが、どこか違和感がある。そして、ピアノの前に座る少女の姿。美咲は胸がときめくのを感じた。

教室に戻った美咲は、オカルト雑誌を読んでいた颯に声をかけた。

「ねえ颯、これ見て!昔の音楽室の写真みたいなんだけど…何だか不思議な雰囲気がない?」

颯は写真を覗き込んだ。彼の目が輝きだす。

「これって…まさか伝説の少女ピアニスト?」

二人が写真に見入っていると、図書室から香織が駆け寄ってきた。普段は物静かな彼女が、珍しく息を切らせている。

「みんな、大変!昔の楽譜を見つけたの。それが、伝説の天才ピアニストのものみたいなの!」

香織の手には、黄ばんだ楽譜が握られていた。

そこへ、工具ベルトを身につけた太郎も慌てた様子で合流する。

「おい、大変だぞ!昨日から変な現象が起きてるんだ。音楽室で…」

五人の視線が交差する。そこへ、智也が近づいてきた。

「みんな、僕も昨日、音楽室で不思議なことがあったんだ」

五人は顔を見合わせた。それぞれが感じていた違和感や不思議な体験が、すべて音楽室につながっていることに気づいた。

智也が静かに言った。

「これは偶然じゃない。みんなで調査してみないか?」

4人はそのことに納得し頷くと智也がこう言った。

「じゃあ、放課後に音楽室に集合しよう。そこで詳しく情報を共有して、調査計画を立てよう」

五人は固く握手を交わした。彼らにはまだ分からない。これが、驚くべき冒険の始まりだということが。

放課後、五人は音楽室の前に集まった。ドアを開ける瞬間、彼らの心臓は高鳴っていた。未知の謎への期待と、かすかな恐怖が入り混じって。

智也が深呼吸をして言った。

「よし、行こう」

ドアが開き、五人は音楽室に足を踏み入れた。その瞬間、かすかなピアノの音が聞こえ、部屋の空気が変わり始めた。

部屋の温度が急に下がり、窓から差し込む夕日が不自然に揺らめいている。五人は異様な空気を感じ取った。

智也が声をひそめて言った。

「みんな、感じるかい?この部屋、何か普通じゃない」

美咲が小さく震えながら答えた。

「うん…なんだか、誰かに見られてる気がする」

颯は興奮気味に周りを見回した。

「すげえ!本物の心霊現象かもしれないぞ!」

香織は静かに楽譜を広げながら言った。

「この楽譜、途中で終わっているの。最後のページには…」

彼女は息を呑んだ。

「『許して』って書いてある」

太郎は部屋の隅々まで目を配りながら言った。

「おい、みんな。あのピアノ、見てみろよ」

五人の視線がピアノに集中した。鍵盤が微かに動いているように見える。そして、かすかな音色が部屋に漂っていた。

智也が慎重にピアノに近づいた。

「これは…自動演奏じゃない。誰かが弾いているんだ」

突如、部屋の温度が更に下がり、窓ガラスが曇り始めた。

美咲が小さな悲鳴を上げた。

「きゃっ!窓に何か書いてる!」

曇ったガラスに、何かのメッセージが浮かび上がっていた。

颯が声を震わせながら読み上げた。

「『私の曲を…完成させて』」

五人は息を呑んだ。恐怖と興奮が入り混じる中、智也が決意を込めて言った。

「みんな、この少女の想いに応えよう。僕たちで、この曲を完成させるんだ」

香織が楽譜を見ながら言った。

「でも、どうやって?私たち、作曲なんてしたことない…」

太郎が急に言った。

「待てよ。俺たちには、それぞれ得意なことがあるはずだ。それを生かせば…」

美咲が目を輝かせた。

「そうだ!私、歌が好きだから、メロディを考えてみる!」

颯も続いた。

「俺は、この曲の背景を探ってみるよ」

香織が静かに頷いた。

「私は図書室で、音楽理論や作曲法について調べてみるわ」

太郎が笑顔で言った。

「俺は、音を可視化する装置を作ってみる。それで、この部屋の不思議な音を捉えられるかもしれない」

智也が最後にまとめた。

「僕は、みんなのアイデアをまとめて、全体の構成を考えよう」

五人は顔を見合わせ、固く握手を交わした。恐怖は消え、代わりに決意と期待が満ちていた。

智也が深呼吸をして言った。

「よし、始めよう。僕たちの怪異解明作戦、スタートだ!」

その瞬間、ピアノから優しい音色が響き、部屋全体が柔らかな光に包まれた。まるで、少女が彼らの決意を喜んでいるかのようだった。

五人は、これから始まる不思議な冒険に胸を躍らせた。彼らはまだ知らない。この経験が、彼らの人生をどれほど大きく変えることになるのかを。

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