唯とは、中学からの仲だ。同じクラスで仲良くなったのが縁で、高校も同じところを受験した。結果、運良くふたりとも受かった。


 それから、高校では同じ部活に入った。部活には、私から誘った。中学では私も唯も帰宅部だったが、高校では何か打ち込めるものがほしいと思ったのだ。そこで、絵を描くのが好きだった私は美術部に入ることにした。 

 

 唯は最初入部を渋っていた。でも私は唯が絵が上手いということを知っていた。美術の授業で彼女の描いた絵を見たことがあったのだ。彼女の絵は世界を直接切り取ったかのように見えた。彼女は絵の才能がある、素人の私でもひと目見てそう分かった。だから、彼女も美術部に入るべきだと思ったのだ。何度目かの説得で、彼女はとうとう折れた。そうして、ふたりで美術部に入部したのだ。


 今思えば、彼女を美術部に誘ったことが失敗だったのかもしれない。


 彼女は美術部に入ってからぐんぐんと絵の技術を伸ばしていった。もともと生まれ持ったものがあったのだと思う。彼女は1年生にして県のコンクールで優秀賞を獲った。2年生では全国のコンクールで入賞を果たした。


 それに引き換え私の絵なんか、彼女の足元にも及ばないものだった。私はただ美術部で自分の好きな絵を描けたら、それでいい……そう思う度、彼女の成功が私の劣等感を刺激した。私のほうがずっと前から絵を描いていた。私だって一生懸命だった。それなのに、あっという間に彼女に抜かされてしまった。その屈辱。


 私は彼女の親友だった。でも、彼女の成功を祝福する気持ちの裏にはいつだってどす黒い感情が渦巻いていた。親友だからこそ、なのかもしれない。近しい人だから余計に、何もなし得ていない自分が惨めになる。そして、感情をぶつける先を間違えて憎しみを抱くようになる。まさに今の私だ。醜い私。それを知りながらも、やめられない、愚かな私。


 私達3年は6月で部活を引退した。私は本格的に受験モード。地元の公立大学を目指して勉強している。


 唯は、私とは違う。彼女は芸術系の大学を目指すそうだ。これまでコンクールでの入賞実績が数多くあるため、推薦でいけるかもしれないそうだ。その入試に備えて、今はひたすら絵を描いているらしい。芸術系は個々に補習や指導があり、私達の補習とは別で行われている。芸術系以外も勿論、夏休みは補習が朝からみっちりある。だから、補習帰りに彼女のいる美術室に立ち寄ってダベるのを、この夏の日課にしているのだ。

 

 初めは補習の邪魔だろうと遠慮していたのだが、唯は息抜きに話し相手を欲しがっていたようなので、美術室に寄って帰るようになった。

 私としても、唯と話すのは受験勉強のガス抜きになってよかった。唯をサンドバッグにしているつもりはない。彼女は親友なのだ。どうでもいいことを話すときだってある。嫌味を言うときだってある。愛しさが募るときだってある。憎しみが募るときだってある。そういうものじゃないか、親友って。


【続】



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