第一夜 ドカ盛りラーメン -其の弐-

箸で冠雪を崩した。雪崩れが起きて麓にもやしが散乱する。キャベツと一緒に拾い上げ口に運んだ。中華鍋の猛火力を経てなおシャキシャキと、そう、シャキシャキとしている。


野菜は生気を失うとしなしなとする。だがこのもやしとキャベツはいまだ生命を感じさせる触感をして、顎、人体で最も大きな力にさえ確かに抵抗を示すのである。


私は生きた野菜を噛んだ。生命で満たされた。それは胃に落ちて消化されて血流にのるという物理化学的なプロセスの話をしているのではない。歯から感じたその力。それがそのまま頭蓋に背骨に伝わって広がっていき私を満たすということだ。食とは、生きる力を得るとはそういうことだ。




ところで、麺は、スープは。




"私は野菜炒めを食べているのか?"


いやラーメンだ。むしろ、これこそがラーメンである。麺を食べる。スープを飲む。それはもはやラーメンのほんの一部に過ぎない。光速不変で進む絶対的な時の流れの先端に我々は常に立っていて、同時に今もなお万物は平等に朽ちていく。


箸を握る指の関節には隠しようのないしわが刻まれている。しかし私はこの前ローンを組んで車をわが物とすることを成し遂げた。私自らがそうであるように古く朽ちながら、先鋭化するのである。時間は奪い、与えるのである。


朽ちると優れるは同時に起きる。ラーメンは過去の形を朽ちさせながら新たな姿を手に入れつつあるのだ。


Is this stir-fried vegetables?


No, it is ramen.


私は朽ちる喜びを、この感動を、ラーメンを、世界に向けて伝えたい。

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