第7話
「まさか晴香ちゃんがこの家に住んでくれるなんて思わなかったわ。空いている部屋があるからそこを自由に使ってね」
会社から帰ってきた誠の母親、聖子が嬉しそうに話す。
「ありがとうございます、聖子さん」
「お礼なんて良いのよ。誠のために頑張ってくれているんだから」
「俺は頼んでないんだけどな」
「アンタが一番頑張らないといけないのになんでそんな態度なのかしら。親の顔が見てみたいわ」
「鏡見ろ、鏡」
そんな二人のやり取りを見て晴香はクスッと笑う。
「何が面白いんだ?」
「お二人は仲がよろしいのですね」
晴香の方を向いて親子揃って首を横に振る。
「清宮さんがいるからマイルドになっているだけで普段はもっと言い争っている」
「余計なことは言わなくて良いのよ、馬鹿息子。ごめんね、晴香ちゃん。誠が迷惑をかけて」
「迷惑なんて……かけられていますけど仕事なので平気です」
迷惑ではないと言いたかったが流石に真っ赤な嘘を吐くのは無理だった晴香。
「仕事って大変だなぁ」
「仕事していないアンタが言うな。それに比べて晴香ちゃんは高校生なのに仕事して、誠も見習いなさい」
「人と比べるなんて浅はかだ。俺は自分を持っているからこのままで良いんだよ」
「じゃあ、生活費も自分で持ってもらいましょうか。まったく、スマホ代すら払わないのによく言うわね」
聖子が溜息を吐いたので晴香がフォローをする。
「誠さんにも良いところはあると思いますよ」
「えー、誠に良いところ? 実の母親だけどわからないから晴香ちゃん教えて」
「それは……」
言葉に詰まる晴香を見て聖子は吹き出す。
「こんなに性格が良い子を困らせるなんて息子ながら面白いわね」
「清宮さん、俺を擁護しようとして俺を傷つけるのをやめてくれ」
「ご、ごめんなさい」
「気にしなくて良いのよ。全部、誠が悪いんだから。あ、晴香ちゃん、お風呂先にどうぞ」
「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
申し訳なくなった晴香は逃げるようにその場を離れた。
コンコンと誠の部屋が控えめにノックされる。
「誠さん、お風呂出ましたので伝えにきました」
晴香の風呂上がり姿を想像してから誠は返事をする。
「わかった」
部屋を出た誠は階段を下りてお風呂場に向かう。
衣服を脱いでから風呂に入り湯船にたまったお湯を眺める。
「さっきまでここに清宮さんが入っていたのか」
しみじみと誠は呟く。そして、誠の下半身が少し反応したので誤魔化すようにシャワーのお湯を出す。体を流してから湯船に浸かる。
まったりと誠が湯船に浸かっていると扉が開く。そこにはシャンプーを持った紺色パジャマ姿の晴香が立っていた。
「さっきシャンプーを使い切ってしまったので持ってきました」
「俺が湯船に浸かってなかったら大事故だったぞ」
誠が指摘すると晴香の顔はみるみるうちに赤くなる。そんな晴香のうぶな反応を見て誠の顔も赤くなる。もしかしたら湯船にいつもより浸かっているのでのぼせてしまったのかもしれない。
晴香はペコリと頭を下げる。
「……すみません」
「今回は良いから、今度から気をつけてくれ」
異性と一緒に住むということは気をつけることが多くてストレスが溜まる。だから早く、この同居生活を終わらせたいと誠は思った。
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