第5話
カフェを出た二人は並んで歩いて昼飯を食べるところを探している。
「誠さん、何食べたいですか?」
「昼も奢り?」
何を食べたいかと聞かれてすぐに奢りかどうかを聞くのが誠という男だ。
「その態度の人に奢りたくはないですが経費で落とします。だから食べたいものを教えてください」
「奢ってくれるんだな。ありがたい。こうやって女の子に奢られ続けるとなんかヒモみたいだな。気分は悪くない。むしろ良い」
「最悪ですね。早くこの生活から解放されたいです」
「それに関しては同意見だ」
そのまま歩き続け二人が入ったのは家系のラーメン屋だった。外観はあまり綺麗ではないが店内は小綺麗で赤を基調としており客も多く入っている。
「結局、ラーメンが食べ物で一番美味いんだよな」
「そうですか? 私はパスタの方が好きですけど」
「じゃあお金だけくれたら君はパスタ屋行って良いよ。あと、ラーメン屋に入ってそういう発言は失礼だから気をつけて」
次の瞬間、誠のスネが蹴られる。晴香の見事な蹴りが入った。
「いってえ!」
声をあげる誠を無視して食券で自分の分のラーメンを注文する晴香。そんな晴香を見て誠はツッコむ。
「パスタが好きとか言っておいて結局ラーメン食べるんじゃねえか!」
「注文しないのですか?」
晴香に言われ、文句を言いつつ誠も味噌ラーメンの大盛を選んで液晶パネルをタッチする。
食券が二枚でてきてそれを頭に白いタオルを巻いた店員に渡す。それと同時に頭に白タオルは巻きたくないのでラーメン屋では働きたくないと誠は思った。
通されたのはカウンター席だった。並んで座ると晴香が口を開く。
「もし仮に稀有な確率ですが誠さんが女の子とデートに行くのならラーメン店よりパスタ店の方が良いですよ。覚えておいてください」
「おい、稀有な確率ってそんなに俺には魅力がないか」
「はい」
「即答かよ。まあ、良いけどさ」
そう言いつつも今まで直接、女子にお前はモテないと言われたことがなかった誠はダメージを受けた。
「誠さんだって社会人として働いてお金を稼げば魅力が増しますよ」
「働いて魅力が増すなら社会人、皆モテモテだろ。そうじゃないから働いて稼いだ金を注ぎ込んでキャバクラ行ったりするんだろうが」
結局は世の中、顔が良い男がモテると誠は思っているし、それが事実だ。
「そうやって女の子を論破しようとしているうちは絶対にモテませんね」
「うっせえ。別にモテなくても良いんだよ」
モテなくても幸せになれるという強がりではなく本気で誠はモテなくて良いと思っている。決してオシャレをして自分磨きに勤しむ者を否定している訳ではない。ただそういう人とは生き方が違うと線を引いているだけのこと。
「親しい相手を作るのも幸せになるには大切ですよ」
彼女の言葉を聞いて誠は踏み込むことにする。
「君にはいるのか、親しい人が?」
彼女は可愛いし、彼氏がいても不思議ではない。あまり異性が聞くことではないかもしれないが誠だから聞いてしまった。
「いますよ」
晴香の言葉を聞いて誠は唖然としてしまう。こうもあっさりと教えて貰い拍子抜けしたことと、そういう相手が本当にいたという驚きが同時に起こった。
「そっか」
なぜか誠はショックを受けてそう呟いた。
しばらくして頼んだラーメンが運ばれてくる。
誠は味噌ラーメンの大盛、晴香は野菜をトッピングした醤油ラーメンだ。
味噌の香りが鼻腔をくすぐる。とりあえずスープを飲んでみる。
「うまい」
「このラーメンも美味しいです」
次に麺を食べてみる。少し縮れた麺を勢いよく吸っていく。
「やっぱりラーメンが一番だわ」
女ウケとかどうでも良い。誠にとってこれがベストなら他人など関係ないと改めて思える美味さだった。
「味噌も美味しそうですね」
自分の醤油ラーメンを食べながら誠の食べる味噌ラーメンにも興味を示す晴香。
言葉にされてしまっているので誠も気を遣う。
「……一口食うか?」
「……頂きます」
誠は味噌ラーメンを晴香の方に寄せる。それを晴香はフーフーしてから小さな口で食べる。
「美味いか?」
「はい、とても美味しいです」
「今度はパスタでも食べに行くか。税金で」
「言い方が最低です。でも、良いですね。行きましょう」
それからラーメンを黙々と二人で楽しんだ。
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