第46話 キマグレーション

 颯爽と街を駆け抜けて行く魔王。


「ねぇ、さっきのお面の人と知りあいなの?えらく仲が良さそうに見えたけど」

「バカ言え。ただの因縁の相手で腐れ縁みたいなものだ。気にするな」


「ふーん。アンタ、友達なんていたのね」

「だからアイツは友達じゃないと言ってるだろ!」


「はいはい」


 奈緒美は笑いながら聞きながす。


「さてはお前、信じておらんな」

「さあね。でもいいじゃない。これからは私がいるんだしさ」


「う、うむ…」


 よくもさらっとそういうセリフが言えるものだ。尊敬に値するぞ。


 ちょくちょく会話を挟みながら最終的に魔王が向かった場所は時期外れの海辺が綺麗に見える海岸だった。


「どこに行くかと楽しみにしてたら海辺のビーチって。しかも肝心の海は荒れてるし、もっと他にいい所なかったわけ?」

「疲れた男女が黄昏れる場所と言ったら海辺だろ。何かマズかったか」


 言葉にこそしていないものこれはデートと言っても過言ではない筈。デートスポットと言えばビーチ。こうやって来るの我も初めてだが、密かにもしもの時に備えてイメージはしてきた。

 もっと喜んでもらえると思っていたのだが肝心の奈緒美は浮かない表情のまま。


「いや別に。ただベタよね」

「なんだそんなことか。いいじゃないかベタでも」


 良かった。何か我が間違っていたわけではなかったようだ。


「…そうね。ついさっきベタじゃない展開があったばっかりだし、よしとしてあげる」

「相変わらず上から目線な奴だ」


「それはこっちのセリフよ。初めて会った時と変わってない。アンタと初めて会った時も今日みたいに私を何故か庇った。もしかして最初から私に気でもあったの?」

「なっ、バカっ!!なわけなかろうがたわけ!!」


 露骨に慌て出す魔王の様子を真顔で見守る奈緒美。


「じゃあなんで?」

「…ただの気まぐれだ。強いていうならこの前は奴が気に食わなくて今回はお前が気に食わなかった。それだけだ」


「ならなんで今日来たの?」

「お前は自分の為でなく誰かの為に結婚を選び幸せになろうとした。それがなんだか許せなくてな。

 誰かの為に好きになっても幸せにはなれない。自分の為だからこそ本当に人を好きになって愛せるのだ。恋愛とはそういうものだろ?」


 真顔で言ってのける魔王の姿に自然と笑みが浮かぶ。


「ロマンチック過ぎ。大体どの口が言ってんのよ。童貞のくせに」

「だから今の今まで我は魔王のくせに彼女の1人も出来ていないのだよ」


「そうね。でも良かったじゃん。こうしてめでたく望みが叶ったんだから」

「え、」


「好きよ魔王」


 まるで何かを祝福をしてるかのように見える程海は大荒れ。波同士勢いよくぶつかり合う音が槇野の一言を掻き消した。


「ん、今なんて言った。よく聞こえんかったのだが。もう一度言ってくれないか?」

「嫌よ。なんで私が2度も言わなきゃなんないのよ。恥ずかしい……」


「いや、でも、今のは結構大事な一言だった気が」


 戸惑いながらがっかりした魔王の様子を見て奈緒美は一歩近づく。


「じゃ、これは私の気まぐれってことで」

「!!」


 そう言った次の瞬間、奈緒美の唇は魔王の初めてを奪っていった。

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