第47話 動き出した歯車
その頃の勇者はというと。
「こんなものか」
襲いかかってきた警備員達を全員返り討ちにすると、元新郎は子供のように泣き出しながら逃げていった。
「ん?……」
複数のサイレンの音を鳴り響かせながらこちらに向かって来るパトカーが見える。
「少し騒がせ過ぎたな」
勇者は急いでその場を後にした。
「俺がここまでしてやったんだ。魔王の奴上手く行ってなきゃその場で俺が倒してやる」
変装を解き愚痴を言いながら帰っていると、
「聞こえる?」
「?」
聞き覚えのある声が聞こえて後ろを振り向くがそれらしい人物は見当たらない。
「(なんだ今のは?)」
「ねぇ、聞こえる?」
「まただ。この声、やっぱり気のせいじゃない。でもなんで!?」
再び声が聞こえて辺りを見渡すがやはりお目当ての人物は見つからない。
「エレン!もしかしてお前なのか!?」
「!!ようやく繋がった……」
「一体どこにいるんだ!」
「それはこっちのセリフよ。魔王との戦いの最中に突然姿を消しちゃって心配したんだから。私に魔法の才能があったことを感謝してよね?そうじゃなきゃこうやって話すことも出来なかった」
どうやらこれはエレンの魔法の一種のようだ。彼女は魔法使いとしてとても優秀だった。流石は将来賢者候補。
「すまない。心配かけて」
「いいわよ、こうしてもう一度貴方と話すことが出来たんだから。で、何処にいるの?」
「それがな……」
俺は全てを正直に話した。到底信じてもらえる内容ではないのは分かっているが彼女には嘘をつきたくなかった。
「異世界で役者をやって国民的スターになってる!?」
「ああ、そうなんだ」
「……ごめん。全然話についていけないんだけど、もしかして私を揶揄ってる?」
「なわけないだろ!信じられないのは分かるけど事実なんだ。信じてくれ」
「冗談よ。確かに信じられない事だけどあり得ない事でもない。きっと魔王との戦い最中なら何が起こってもおかしくないもの」
「ありがとう」
しばらく会えていなかったけどやはりエレンは変わっていない。どんな時も冷静に物事を捉え俺を信じてくれる。
「でも困ったわね。どうりで殆ど魔法が通じないわけよ。そこが異世界なんじゃ私の転移魔法も役に立たないし、せめてこの世界に来た時と同じ条件を作れれば何かきっかけになるかもしれないけど…」
そういえば俺達はどうしてこの世界に来たのだろうか?最初は魔王が俺に仕掛けた嫌がらせかと思ったがそうじゃないらしいし。
エレンの言う通りあの時何かが起こったんだ。その何かが分かれば、元の世界に帰れるかもしれない。
「いや、それならなんとかなるかもしれないぞ」
「え?でも貴方が姿を消した直前は魔王と戦っていたのよ。それにその魔王は貴方がその手で倒した筈。仮に魔王程強力な力を持ってる人がいたなら別だけど、そんな都合よく見つからないに決まってる」
エレンらしく与えられた少しの情報を元に次々と考えを述べてゆく。
俺はそれに少しホッとした気持ちを抱きながらも会話を続ける。
「それなら大丈夫だ。魔王も一緒にこの世界にいるからな」
「え!?」
「しかも今は俺の後輩で一緒にカフェでお茶する仲だよ」
「意味分かんない……」
それは俺も同意見だ。この世界に来なきゃそんな事あり得なかったからな。
「だけどそれだけじゃきっと意味がない。この世界でも一度魔王と軽く戦った事があるけど何も起こらなかった」
「きっと何か他に理由があるのよ。あーあこんな時にあの人がいてくれたら何か言ってくれるかもしれないのに!!」
確かにいつも俺達がピンチの時は必ず師匠が助けてくれていた。きっと今だって。
勇者は師匠が託してくれた剣に目を向ける。
「ん?……」
「どうしたの?何かあった?」
勇者はふと何かを思い出す。
「そうか分かったぞ!俺達が異世界に飛ばされた理由が」
「本当に!?」
「ああ。やっぱり師匠は師匠だ。それに魔王が言ってた通り面倒くさい人だった。あの時伏線みたいに情報を与えるなんてさ」
「ど、どういうこと……?」
「ありがとうエレン。お前のおかげで大事な事を思い出せた」
「だからどういうことよ!?説明して!」
「戻ったら話す!」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
その瞬間魔法の効力が切れ勇者と会話が切断される。
「ったくアイツめ……大事なところで切りやがって。本当そういうところ変わってない!!」
エレンは自宅でキレ気味にワインを飲み干す。
「約束守りなさいよ。帰ってきたらただじゃおかないんだから」
良くも悪くも魔王や勇者による無茶苦茶で忙しない1日はこうして幕を下ろした。
その日の夜、<いっしょにラ・ラ・ラ!!!>の番組終了が早々に世の中に正式発表された事を魔王達が知ったのは翌日の事であった。
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