第45話 ここは任せて先へ行け
「なんなんだお前は!?……」
「俺か?…俺は勇者モモタロウ!全ての女性と恋する者の味方だ!!」
「は?……」
「え?……」
「なっ……(アイツは何を言ってるんだ)」
まさか過ぎる展開に完全に一同言葉を失う。
その中でも魔王だけが勇者モモタロウと名乗る男を軽蔑する目で見ていた。
「どうした?ここは盛り上がるところだろ!何故俺が来たのに盛り上がらないんだ!」
その男にとってこの状態は完全に想定外だったようで、さっきからは想像できないほど慌てていた。
「おいお前、……」
その様子に呆れた魔王はそっと男の元に近づくと小声で話しかける。
「こんなところで何をしているのだ!本物の勇者のお前がごっこ遊びか?」
そう。この勇者モモタロウと名乗る男の正体は魔王の因縁の相手で今は業界の先輩でもある、勇者で俳優の
光之正義だったのだ。
「少し前にお前が不気味に笑ってるところを見かけてな、気になって尾行していたんだ。その様子を見るにどうやら気付いてなかったようだな」
「っ……」
くそ。我としたことがさっきまでの一連の行動に集中をしていたせいで警戒が疎かになっていた。普段の我ならコイツの気配を察知するなど容易な筈なのに。
「だからってそんな格好してきてなのつもりなのだ!」
「俺はお前と違って人気者だからな。騒ぎに巻き込まれてその様子が拡散でもされたら芸能人生に支障が出る。そうならないための変装だ。これなら誰も正体が俺だとは思わないだろ?」
そっちが勝手に巻き込まれに来たくせになんて言い草だ。それにこんな登場しといて本当にバレないとでも思ってるのか?
どこからどう見たって、俳優光之正義がふざけてるようにしか見えないぞ。
「な、なんだよその顔」
「別に。だがちょっと特をした。今までの世界にいたらお前のこんなマヌケの姿は見れなかっただろうからな」
「マヌケとはなんだマヌケとは!せっかく勇者の俺が助けに来てやったというのに」
「は、何故勇者のお前が魔王である我を助ける必要がある?意味が分からん」
「正直自分でもよくわかってない。ただ、さっきのお前の姿を見てたらなんか俺も居ても立っても居られなくなったんだ。魔王ならではの愛の告白、意外と悪くなかったぜ」
「なっ、違う!そんなんじゃない!…」
屈辱だ。1番見られたくなかった奴に見られてたなんて。
また一つ、コイツを倒す理由が出来てしまった。
「照れるなよ」
「照れてない!」
「ムキなるな。こんなんで動揺してたらせっかくの魔王が台無しだぞ」
「お前な……」
「だけどお前に感謝してる」
「なに?」
コイツが我に感謝だと?奢ると言っときながら奢らなかったコイツが我に感謝!?あり得ない。
「倒すべきお前もこの世界にいてここでの生活も大分慣れた。無理に元の世界に帰る必要も無いと思うこともあったが気が変わった」
「どういう意味だ」
「会いたくなったんだよ。何百人と関係を持ってきた俺の中のナンバーワン。魔法使いにして幼馴染でもある最愛の女エレンにな!」
なんだ、ただの自慢話か。
「そうか。ならさっさっと帰れ。我もその方が今となったらありがたい」
「いつか帰るさ。でもそれは今じゃない。お前も俺も、そうだろ?」
「分かった気になるな」
「フッ……」
「お前らぁ!!俺達を無視してんじゃねぇぞ!!」
怒鳴り声で蚊帳の外になっていた元新郎の存在を思い出す。
「そろそろか。…ここは任せて先へ行け」
勇者は胸を張りながら堂々と魔王の前に立ってみせる。
「本気か?」
「本気だよ。魔王のお前にだって幸せになるくらいの権利はある。それにきっと師匠だったら同じことをしてる」
確かにアイツなら面倒くさがり文句を言いながらも、なんだかんだ理由つけて助けに来てもおかしくない。
今のコイツのように。
はぁーー。やはり色々な意味で面倒くさいのは師匠譲りってことか。
「いいだろう。勇者のお前に助けられるのは癪だが使えるモノはなんでも使わなきゃな。特別に助けられてやる」
「どこまでもプライドが高い奴だ。礼くらい言え」
「お前が言うな」
2人は啀み合いながらも拳を軽く打つけて頷く。
「我以外の奴にやられるでないぞ」
「当然だ。お前にもやられる気は無いけどな」
「言っておけ」
「お前こそ女泣かすんじゃねえぞ」
「当然だ。お前は我とは違うからな」
「言っとけ」
「おーーいっ!!どこまで俺達を無視する気だ!!」
男がキレるとそれを合図にするように一斉に部下達が武器を持つ。
まるで戦争でもおっ始めるかとばかりに様々な銃火器を街中で構える。
「コイツら本当にただの警備員か?」
「どんな世界でも金持ちと権力者はなんでもアリってことだろ」
「なるほど。納得」
勇者は上等と言わんばかりに剣を構える。
「魔王。抜け道は作ってやる。そのまま一気に駆け抜けろ」
「うむ」
「久々だな。この技を使うのは」
勇者の剣が光り輝く。
「手加減を忘れるなよ。お前はいつもやり過ぎるからな」
コイツのこの技でどれだけ我の城がめちゃくちゃになったことか。
「分かってる、程々にしておくさ。程々にな!!」
勇者は光り輝く剣を思いっきり振り下ろし空を切る。
空振りのように見えたその一撃は次の瞬間目の前の男達を吹き飛ばした。
「ほらな」
綺麗に目の前の男達だけが吹き飛ばされるとそこに一歩の抜け道ができる。
「多少は腕を上げたようだが相変わらず無茶苦茶な剣の使い方をするな!」
コイツには剣術というものがない。ただ持っている刃物を己の力で考えたままに振り回すだけ。だから実に単純明快で分かりやすい。基礎がないからこそ相手もそれに対応出来ない。
コレもアイツがちゃんと剣の使い方を教えないから、こんな無茶苦茶な方法がまかり通るようになるのだ。
見てみろ。さっきまで威張り散らしていた男もあの表情だ。可哀想に。
「さぁ今度は我の番だ。行くぞ!!」
魔王はその隙にどんどんとスピードを上げながら街を颯爽と駆け抜けて行った。
「あ!……い、いつの前に!!お前らシャキッとしろ!アイツらを追うんだ、逃すな!!」
動揺している部下達を叱りつけ、なんとか魔王達を追いかけようとするが、勇者が再び剣を向ける。
「!!……」
「お前らに魔王の相手はまだ早い。まずは俺が相手をしてやるよ」
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